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ようやく離れ横たわっていると、少し回復したリリネットが文句を言い始めた。
「…スタークのバカッ」
「…何でそんなに怒るんだ」
拗ねて背を向けるリリネットを覗きこむように、機嫌を窺う。
「…わかんないの?」
「解らん」
以前は性急な行動に対して、ここまで怒ったことはなかったのだ。
「……スターク一人で決めちゃってさ、あたしの意志は無視?」
「…どうしろって言うんだ…」
「…何か、言うことないの?」
「…言うこと?」
「せっかく二人になったのに。ほら」
唇を尖らせてスタークに何かを求めている。スタークは何が解らず首を傾げるばかりだ。
「…んもー…スタークって、鈍いんだから」
「…何なんだよ、一体」
「子供欲しいの前に、愛してる。だろ」
「……ああ…」
どうやらリリネットは風呂で七緒と何かしら会話をしたらしく、すっかりそんな気分らしい。人のように愛を語れと言う。
「……面倒臭ぇ…」
スタークはリリネットに背中を向けた。
「何でさぁ!言えよ!」
リリネットは言って欲しくて仕方がない。以前は自分達は一人だという意識が強く、言葉はいらないとも思っていたのだが、七緒の話を聞いて羨ましくなってしまったのだ。
「なあなあ、スターク言えよ。言わなきゃキスもしないし、一緒に寝てやらないからな」
「うっ」
リリネットの脅しはスタークには効いた。子供じみた脅迫なのに、特に今のスタークには大変堪えてしまったのだ。
呻き声を上げて頭を抱える。
「ほら、言えよ」
リリネットは楽しげにスタークへと体重を預け、繰り返し要求する。
「うう…」
スタークは呻きながらも背中に感じるリリネットの体温や重みに、徐々に逆らえなくなってくる。
寝返りを打ち、リリネットに顔を見られないように抱きこんだ。
「……愛してるに、きまってるだろう…リリネット」
ぶっきらぼうにそれでもはっきりと小さな声で告げられる。強く抱き込まれた事でリリネットの顔はスタークの胸に押しつけられた形で、高鳴る鼓動が聞こえる。
「あたしも、愛してるよ。スターク」
甘く可愛らしい声で返す。言葉がこんなに嬉しいものだとは思わなかったと、言わんばかりに弾んでいる。
「んにゃ?」
不意に足に押しつけられた熱い塊にリリネットが声を上げると、スタークが勢いよくリリネットの胎内へと潜り込んだ。
「ふあ、何、いきなりっ」
「黙ってろ」
唇を重ね黙らせると、今度は優しく探るように動き始めた。
「あ…あん…スターク…」
二人はその日、繰り返し体を重ね愛し合い、翌日、朝になっても姿を見せなかった。
「まあ、今日はゆっくりさせてあげようよ。昨日は眠れなかったようだし」
「…そうですね。膳でも廊下に置いておきます」
「うん、そうだね」
支度をする七緒を見、春水は腕を組み庭を眺める。
この色のある世界で、変わって欲しいと願う。
彼らも好き好んであの戦いにいたわけではなかったのだ。
特にスタークは春水と対峙してもぼやき続け、戦いをなるべく避けようとしていたのだ。
死神になれそうな素質はあるが、あえて口にしない。
今は選ぶ権利があると、春水は無言のうちに伝えようとしている。
廊下の気配に、スタークは目を覚ました。
七緒が去ったあと、そっと障子を開けると膳があった。
引き寄せて部屋へ入れると、小さな手紙もついていた。
今日一日はゆっくり休んでいて良いとの言付けだった。
「何をしようか…なあ…リリネット」
眠るリリネットの頬をそっと撫で呟く。
考える時間は有限ながらもある。
今度はついて行く背中を間違えないように見極めたいと、スタークは明るい空を見上げ考えたのでした。
おしまい
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