学校のクイーンB的立ち位置の高飛車系女子が承太郎に好きに扱われる話
退屈。グロスに濡れた唇からそう一言零せば、面白いように私の目の前がざわめき、次々と言葉が落ちる。
「ななこさん、カラオケにでも行きましょうか?」
「買い物は?」
放課後の暇つぶしなんて高校生の発想はありきたり。何よりもいわゆる「取り巻き」というやつは思い通りになりすぎて退屈だ。
「そういうのはもう飽きたの。」
時間もあるし、周りに人だっている。お金だって別に困ってはいない。なのにどうしてこんなにも満たされないのか。
恋人とのお付き合い、というものもしてみたけれど、私の言うことを聞いてくれる男なんてそもそもたくさんいるから、一人に決める意味もないなと思ってやめた。なにより信頼の置けない男に触れられるなんて有り得ない、と思ったということもある。
私のこの退屈を、紛らわすようなことはないだろうか。
あたりを見渡すと、一際目立つ男がいた。私と同じように周りに異性を従え歩くくせに、うっとおしいなどと声を上げる男。私も時折、彼のように「うっとおしい」と一蹴したくなる。それをしないのは、彼がどんなにそう言った所で一歩も引かない女子たちを目の当たりにしているからかもしれない。
「…ねぇ、JOJOについて、教えてくれる?」
そう呟けば、クラスメイトだという男がここぞとばかりに声を上げた。
空条承太郎。その名前を知らない人はこの学校にはいないだろう。彼が二ヶ月程姿を見せなかった冬の間でさえ、彼の名前はあちこちから聞こえてきた。女には興味がないと言った風の謎に包まれた彼なら、私の退屈を紛らわしてくれやしないかしら、なんて。
彼のクラスメイトからの話は誰もが噂で知っているレベルの事ばかりで、その本質はやはり見えない。私は空条承太郎という男に興味が湧いた。
*****
翌日、取り巻きを置いて一人屋上に向かう。噂通り、彼は授業をサボって煙草をふかしていた。近付くと、彼は私に気付いたのかちらりと視線をこちらに寄越し、興味がないといった様子ですぐに視線を落とした。
「ねぇ、JOJO。」
「…何か用か。」
こちらも見ずにそう告げ、再び煙草を咥える。風のない屋上に立ち上る煙の隣に、腰を下ろした。
「…別に用ってほどでもないんだけど。」
「ならどうしてそこに座る?」
彼は相変わらずこちらを見ない。視線を浴び慣れている私にはその姿が新鮮で、思わずまじまじと彼を見つめた。
「…あなたに、興味があるの。」
「俺にはねえな。」
どっかいけ、と指先を振るわれる。そんな扱いをされたことがなくて思わず言葉が零れた。
「どうして。」
「テメーが行かねえなら、俺が行く。」
私の問いには答えず、彼は立ち上がり煙草を踏み消した。スタスタと歩き出す後ろを、慌てて追いかける。
「…待って、JOJO。」
私は何をしているんだろう。こんなのまるで私じゃあないみたいだ。けれど足は勝手に彼の後を追う。小走りにならなければ置いていかれそうで、私はどうしてこんなことをと思いながらも必死に足を動かした。
「…いつまで付いてくる気だ。」
彼はそう言ってぴたりと足を止めた。呼吸を整えて言葉を継ごうと必死な私を、不躾な視線が見下ろす。日本人らしからぬブルーグリーンの瞳が私をようやっと映したことに少しばかり安堵する。
「…やっと、…ッ、こっち見た。」
途切れ途切れにそう告げれば、彼は驚いたように目を見開き、それから値踏みでもするように私を上から下までじっくりと見た。
「…へぇ。」
あまりに不躾な視線が肌を焦がしてしまうんじゃあないかと思う。彼は突然私の腕を掴み、目の前の門を入っていく。驚いた視界の端に「空条」の文字を捉え、私は彼に引き摺られながらあぁここはJOJOの家か、なんて場違いなことを思った。
*****
「…痛ッ、」
畳の上に放り投げられる。私が身体を起こすよりも早く、JOJOが私を組み敷いた。間近に見る彼の顔は美しく、その鋭い視線と大きな身体には逃げ出せる隙なんてありそうにない。
「俺のものになれ。」
「は?なにそれ、どういう…」
彼は意味がわからずポカンとする私の顎を捕まえ、唇を重ねた。分厚い舌がぬるりと入り込んでくる感触に、ぎゅっと目を閉じる。抵抗なんて無駄だと言わんばかりに好き放題弄ばれて、息が上がる。
「…言葉通りの意味だぜ。」
唇を離すと、彼はこともなげに言った。私も言い返してやろうと思ったのだけれど、脳に酸素を送り込むのが精一杯で、言葉なんか出てこない。
「…ッ、嫌よ。」
やっと一言言い放つ。精一杯虚勢を張ってみたはずなのに、口を突いて出た声はあまりにも情けなかった。胸が苦しいのは、まだ酸素が足りていないんだ。そう言い聞かせながら、私は必死に彼を睨みつける。
「私は、思い通りになる男が好きなの。」
「…それが退屈だから、俺んトコに来たんだろうが。」
そうなのだろうか。否、私はJOJOさえも私の思い通りになると思っていたはずだ。この男が言うようなことなんて、何一つ当たっていない。
「違う!…馬鹿にしないで…ッん…!」
無理矢理に唇を塞がれる。暴れても逃げられないとわかっていたって、逃げようとせずにはいられない。
私の抵抗を嘲笑うかのように、再び彼の舌が捩込まれた。ぐちゅ、と水音を立てながら這い回られて力が抜けそうになるのを必死でこらえ、固い胸を押し返す。
「…っふ、ぅんッ、ん…は、…ッ!」
やっと唇が離れる頃には、目尻に涙が浮いていた。それが悔しくて、私は彼を睨みつける。
「…なんだ、物足りなかったか?」
承太郎は、どちらのものかわからない唾液で濡れる唇の端を歪ませ、私の抵抗なんて無いもののようにセーラー服の裾を下着ごと一気にたくし上げた。そうして外気に晒された胸に顔を埋める。ぬるつく熱い舌が肌を濡らす感触に、びくびくと身体が跳ねた。
「…やぁっ、やだッ…!」
大きな手が膨らみを包み込み、感触を確かめるように何度も力を込めた。片方の頂を舌で転がされて、その度に背筋に電流が走る。抵抗の声を上げるために開いたはずの唇は、濡れた音を零すばかりで何の役にも立たない。
「…オイ、うるせえぞ。」
少し黙れ、と言われたけれど、そんなの到底無理な話だ。私が唇を噛むと、承太郎がまるでそれを解くゲームかのように愛撫の手を強めるのだから。
「…んんっ、ぅあ…ッ…」
承太郎の手がするりとスカートの裾から入ってきて私の足を撫でた。これから何をされるか、私の悪い想像が急に現実味を帯びてきて、やだやだと足をばたつかせる。すぐに足首を掴まれ、畳に縫い付けられた。承太郎の手は私の胸と太腿から離れていないはずなのに。
「…暴れんじゃあねーぜ。」
「や、ッ!なに!?…だれ…ッ?」
首を起こして足元を見ても、承太郎しか視界にはいなかった。誰のものかわからない手に無理矢理足を開かされ、押さえ込まれる。承太郎は私が押さえられているのを知っているかのように悠々と身体を起こし、下着に手を掛けた。
「やっ、やだやだ!」
「…うるせえ。」
がばりと覆い被さられ、唇を塞がれる。抵抗の声を上げられないままに下着は雑に取り払われた。
「んぅ!んんっ、…っふ…ッ…」
今まで私を雑に扱ってきた承太郎の指先が、花弁をそっと撫でた。まるで何か、触れたら壊れてしまうガラス細工を扱うかのような丁寧さに、どうしたってそこに意識が集中してしまって戸惑う。無骨な指先が、ゆっくりと私の中に沈んでいく。
「…ッ、ふぁ…んっ、んぅ…」
身体の中をゆっくりとまさぐられ、腰が揺れた。鼻に抜ける声がまるで自分のものじゃないみたいで恥ずかしい。唇を離されて出した声だって、自分でも可笑しくなる程に甘く蕩けて。
いつの間にか足を押さえる手は無くなっている。逃げ出すつもりになれば、今ならできるのかもしれない。
「…ななこ」
不意に名前を呼ばれる。思わず顔を上げると、中を探る指が増やされた。色を含んだ声を上げる私を見て、承太郎は(私の見間違いかもしれないけれど)優しく瞳を細め、耳元に唇を寄せた。
「…俺のものになれ。」
承太郎が紡いだ言葉を理解したいのに、快楽に蕩ける頭は彼の指先から与えられる刺激ばかりを拾っていく。私の反応を見ているのか、彼は私が気持ちいいところを的確に擦り上げてくる。
「…っあぁ…、あぅ、ッは…」
意味のない言葉ばかりを零す私の唇をもう一度軽く塞ぐと、彼は私の中を探っていた指を引き抜き、猛った欲望を押し当てた。
「…ななこ、ッ…」
「ぅ、あ…ッ!あぁぁっ…!」
めりめりと音がするんじゃあないかって程の質量が、私の身体を押し開く。苦しくて熱くて、目の前の身体に縋り付いた。彼は少しだけ驚いたように瞳を開き、私をぎゅうと抱きしめた。
「…っふぁ、あ、ッ…じょ、たろ…」
「…大丈夫か、」
「だ、いじょ…っぶ、な…」
わけない、と言いたかったのに、承太郎は私の言葉を途中で遮ってゆっくりと律動を始めた。内蔵が引きずり出される感覚に身体が戦慄く。悲鳴じみた嬌声を上げる私に、承太郎はもう煩いなどとは言わなかった。
「…っぅあ、ッひあ…あぁっ、あッん…」
涙がぽろぽろと溢れ、歪んだ視界の向こうには真剣な瞳の承太郎。何が何だかわからないままに、ギリギリのところに追い詰められていく。
「…っ、」
「ひ、ああぁっ…あぁッ!」
切羽詰まったような承太郎がひときわ深く私を抉り、そのまま私の視界は白く弾けた。
*****
「…っう……」
重い瞼を上げると、大きな背中の向こうに燻るタバコの煙が見えた。気怠い身体を起こせば、気配に気付いた承太郎がこちらを向き、タバコの火を消した。
「…起きたか。」
のっそりと近付く承太郎に思わず身構えると、彼は一瞬だけ複雑な表情を見せ、すぐにいつものポーカーフェイスで私の髪をそっと撫でた。
「…どうして、…」
掠れた声を上げると彼は私をじっと見つめ、一言零す。
「…俺を思い通りにしようなんざ、百年早ぇんだよ。」
言葉の意図は読めない。けれど髪を梳く手はとても優しい。もし彼がもう一度あの台詞を吐いたなら、頷いてしまうかもしれない、なんて。
「…その台詞ッ、…そのまま返すわ。」
「そんな目で言われたって説得力なんかねえな。」
彼はくしゃりと私の頭を撫でてそう言った。
私は一体、どんな目をしていたというのだろうか。彼の瞳を覗けばわかるかもしれないと思ったけれど、どうにも恥ずかしくて叶わなかった。
20160429