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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
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19.君のつくる世界

お化け屋敷の探検は失敗に終わったけれど、まぁいいかなって気持ちになったのは、花京院くんが夜までずっとそばにいたからかもしれない。
「お化けが出たら困るだろう?」なんて悪戯っぽく笑いながらベッドサイドに腰掛ける(ちょっぴり浮いてるから厳密には違うけど)花京院くんに「そんなこと言って、花京院くんが居たいだけでしょう?」と返せば、「バレたか」なんて声を上げて笑って。
そうして色んな話をしながら、いつの間にか幸せに眠りに就いた。

*****

目を覚ますと、普段通りの朝。今日はお休みの土曜日。思いのほか早く目が覚めたらしく、辺りはまだ朝焼けに包まれている。
窓の外は昨日の夜半過ぎに降ったらしい雨の残滓。朝日に雫がキラキラと反射してあんまり綺麗で思わず溜息を吐いた。おはよう、と誰にともなく声を掛ける。花京院くんがうちに来てから(って表現が正しいのかは知らないけど)、もしかして花京院くんがいるんじゃあないかって、もう日課みたいになってる朝の挨拶。けど今日は、何も返ってこなかったところを見ると明け方まで雨だったんだろうか、などと考えながら窓辺で伸びをする。

「なんか、久しぶりな感じ」

何がと言われればなんだろう?って感じなんだけど、最近いろんなことがありすぎてよく眠れたのか怪しい日も多かったし、こんなに清々しくて静かな朝は久しぶりのような気がする。

「二度寝って贅沢もありかなぁ……」

散歩、とか掃除とか読書とか、いろんな選択肢はあるけど、やっぱり一番幸せなのはもう一度布団に戻る事じゃあないだろうか。
たまにはいいよね、なんて思いながら、もう一度布団に潜り込む。まだぬくもりの残るあたたかな綿に包まれると、あっという間に幸せな眠りに落ちた。

*****

あぁ、またあの夢だ。
せっかく幸せな眠りについたというのに、どういうことなんだろう。決まって流れる音楽を背景に、また物語の続きが始まる。
起きたら覚えていないだけで、もしかして毎晩見ているのだろうか、とか、これはやっぱり「スタンド」というものの力なんだろうか、とか考えてみたけれど、結局わからないままに私は目の前のストーリーに放り込まれた。と言っても、今までと同じようにこちらからの干渉は出来ず、何を言っても誰にも届かない。スクリーンの向こうを見つめるのと、おんなじ。

「てめぇのいう真実とやらは、ただのまやかしだ。」

怒りに震える空条くんが、DIOと対峙している。あぁ、空条くんはまた闘うのか、とどこか諦めたような気持ちと、何か映画のクライマックスシーンを見ているような高揚。見えないほど素早い拳の応酬に、夢と知りながらも息を呑む。

「何度も言わせるなよ、てめーは俺を、怒らせた。」

低い低い、空条くんの声。膝をつくDIOは、空条くんの持った腕輪で、その拳を壊された。この物語はきっと、これで最後だ。と、なにやら確信めいた気持ちが湧いて、私は小さく溜息をつく。

「やれやれだぜ。」

キラキラと輝く景色、鳴り響く鐘の音。闘いは空条くんが勝ち、まるで天国みたいな世界が広がる。そうしてまるで光のエンドロールみたいにキラキラした世界の中、私は瞳を開けた。ザ・ワールド、オーバーヘブン。真実の上書き。

あぁなんて、すてきなちから。

思わず溜息を吐く。「僕が生きている並行世界」と花京院くんが言っていたことを思い出した。花京院くんが生きていたら、なんて思わないでもないけれど、叶わないことを口に出しても悲しくなるだけだから。
仮に何か言ったとしても、この夢の中では誰にも聞こえない。私の知らない物語は、勝手に紡がれるんだ。普通に生きてたって、私に出来ることは私の行動を変えるだけ。世の中のほとんど全てが、私の知らない物語でできていることを考えたら、この話だって並行世界だって、別にあり得ないことじゃあないのかもしれない。まぁ、だからって信じるかと言われたら、それは素直に頷けないけれど。

20181106


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bkm