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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -

甘い甘いお砂糖の、

「なんだぁ? これ。……消しゴムか?」

消しゴムなんて置いてないはずだ、と声のする方を振り返れば、ポルナレフがテーブルの上の箱を覗き込んでいた。

「あぁ! それは落雁だよ」

「ラクガン? なんだそれ」

食べてみたら? と言えばポルナレフは「こりゃあ食べモンなのか?」と大袈裟に驚いた。言われてみれば確かに、あまり食べ物らしい見た目ではない。白い小さな塊は、細工のある消しゴムのようだと言われたら、なるほどと頷けるような気もする。承太郎の知り合いとは言っても、フランス人には馴染み薄だろう。

「……今お茶を淹れるから、待ってて」

折角だから緑茶も淹れてあげよう、と台所に向かう。私が毎日使っている急須と湯呑みも、ポルナレフには珍しいものなんだろうかと思うとなんだかとても不思議だ。

「……どうぞ」

湯呑みを差し出し、小皿に一つ落雁を乗せる。ころりと中央に鎮座した花の形は、控えめながらもきちんとその存在を主張をしている。ポルナレフはしばしお皿を見つめて、それからそっと摘んで口に放り込んだ。

「……砂糖かぁ? 固いんだな。ギモーヴみたいに柔らかいのかと思ったぜ」

もぐもぐと口を動かしながら器用に喋るポルナレフ。ギモーヴってなに、と問いかければ、ギモーヴはギモーヴだろ、と返された。

「……美味しい?」

「あぁ、」

ポルナレフは湯呑みを両手で包むように持ち上げると、「日本のカップは取っ手がないんだな」と不思議そうに眼前に翳した。

「……たしか、緑茶の適温がわかるように、だった気がする」

「へぇ、色々考えるもんだなァ」

湯呑みを傾けこくりと喉を鳴らすと、「これは『ラクガン』によく合う……」と感心したように呟いた。それを聞いてなぜだか誇らしい気分になるのは、私が日本人だからだろうか。

「……気に入った?」

「おう」

「なら良かったよ。私も食べよ」

ポルナレフのお皿にもう一つ落雁を乗せ、同じように自分の分も手元に置いた。ポルナレフは落雁を手に取りしげしげと眺めている。

「……珍しい?」

「……まぁな」

確かに、私もフランス菓子を見たら同じようになるかもしれないな、と零せば、ポルナレフは気障に笑って、「そんならななこもフランスに来るか?」と言った。

「……一度は行ってみたいかも」

「なんなら嫁に来たっていいぜ」

さらりとそんなことを言われても、言葉の意味が飲み込めない。喉を詰まらせたみたいに目を白黒させる私に、ポルナレフは尚も言葉を掛ける。

「言っておくが、オレは本気だからな」

いつでも歓迎するぜ、マドモアゼル? なんてまるで冗談みたいな言葉を吐くくせに、その瞳がやけに真剣で、冗談やめてよ、なんて言葉は返せそうにない。

「……考えておく、よ」

「前向きに頼むぜ」

誤魔化すように口に入れた落雁は、なんだかとても甘かった。

20180104

ポルナレフで『落雁』
旧春さまありがとうございました!!



萌えたらぜひ拍手を!


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bkm