「ねぇななこさん、俺ななこさんにいーもんあげる。」
大型犬よろしく私にまとわりつく仗助くんが急に何か言い出した。仗助くんがこんな顔をしている時はロクな話じゃあない。本人は本気で良いアイデアだと思っているのかもしれないけど、子供っぽい話(彼にとっては年相応なんだけど)ばかりで付き合うのは楽しい反面、年の差を感じて地味にしんどかったりする。
「…なにくれるの?」
さして興味なさげに返したけれど仗助くんはそんな私には気付きもしないで、まるで青色のネコ型ロボットのように意気揚々と何かを差し出した。
「じゃーん!仗助くんのブロマイドっス!」
差し出された写真に視線を落とすと、ピースサインをした仗助くんが、アイドルよろしくこちらに視線を送っている。その写真のあまりの出来の良さに思わず吹き出した。
「…ッ、ほんと、ブロマイド…!」
「あー!なんで笑うんスかァ!」
ガッコの女子たちからしたら垂涎モノっスよー?なんて頬を膨らませている。垂涎なんて難しい単語を知ってるもんだと思ったら、なおさら笑えて来た。
「すごいキメ顔…ブロマイドって…誰が撮ったの!?」
爆笑しすぎて途切れ途切れになってしまったけれど、仗助くんにはちゃあんと伝わったらしく、なんでそんなに笑うんだよ、なんて顔をしながら「億泰が撮ってくれたんス」と不満そうに教えてくれた。
「…あー、おかしい。億泰くん、なかなかセンスいいじゃん」
「あー、なんかすげーノリノリでポーズ指定もされた。」
億泰くん、センスあるなぁ。いくらノリのいい高校生とはいえ、こんな本格的なブロマイドを撮るなんて。…まぁ素材の良さも多分に関係あると思うけど。それにしても本当にアイドルみたいだ。
「仗助くんもその気?」
「そりゃーモチロン!ななこさん喜ぶぜェ〜って億泰が言うから」
そこまで言って仗助くんはハッとしたようにこちらを向き、恥ずかしそうに笑った。
アンタに喜んで欲しくて頑張ったんスよ!なんて言われるのは嬉しいけど、この写真を一体どうしろというのか。
「ありがとう。とりあえずもらっておくね?」
「とりあえずってなんスかとりあえずって!」
見もせずにしまおうとする私の手を仗助くんが掴む。「ちゃんと見てください」と思いの外真剣な顔が向けられた。
「…え、見ろったって…仗助くんならいつも見てるじゃない」
手元の仗助くんは、一番いい顔を切り取っただけあって、直視できないほど格好いい。馬鹿みたいな話だけれど、心臓に悪くって見つめられる気がしない。…本人の目の前なら尚更だ。
「…ねぇ、ちゃんと見て」
強い口調で促されて、手元に視線を落とす。改めて見ると超カッコいい。思わず言葉を失うくらい。あぁやだ頬が熱い。
「ななこさん、どーしたんスか。」
「…なにが」
「…顔、真っ赤っスよ…?」
「うるさい」
ぷい、と顔を背けると、仗助くんは驚いたように目を見開いて、それから期待のこもった瞳で私の顔を覗き込んだ。
「ねぇ、それって、俺がカッコよくて照れてるってコトっスか!?」
図星を指されて一気に頬が熱くなる。ああもう、恥ずかしい。逃げ出してしまおうか、と思った瞬間、私は仗助くんの太い腕に引き寄せられていた。
「…ッ、仗助くんっ!」
「あの、それ、めちゃくちゃ嬉しいんスけど!」
俺のことなんて別に、って顔してほんとは好きとか!!ななこさん俺ッ、もうグレートに嬉しいっス!なんて私の意見なんて全く聞かなそうな勢いでぎゅうぎゅうと抱き締めてくる。何か言ってやりたいけど仗助くんの言葉がほぼ正解だったもんだから、恥ずかしくて何の言葉も出てこない。
悔しくて恥ずかしくて仗助くんの胸を押してみたけれど、回された腕にさらにきつく抱き締められただけだった。
むちょすさま、素敵なイラスト本当にありがとうございました!!!