流し目で、女子のハートをがっちり掴む!なんて雑誌の記事を読んだ俺は、ななこさんにやってみようかなー…なんて、テレビを目の前にしつつ視線をちらりと投げかける。
「…なぁに、仗助くん。」
「…え?なんでもないっスよー。俺はテレビ見てるだけだし。」
「…そう。」
失敗。ななこさんは一言返事を残してキッチンに行ってしまった。
俺は溜息をクッションに閉じ込めて、テレビに顔を向ける。意識はもちろんキッチンにあって、瞳はななこさんを追っかけちまってる。
「…さっきから、こっちみてない?」
「…さぁ?どーっスかね?」
コーヒーを淹れてくれたななこさんが俺を気にしてくれるから、曖昧に笑って誤魔化した。彼女は俺をちらりと見て、溜息を吐くみたいに言う。
「…なーんかさぁ、今日はやけに色っぽくない?」
「…そーっスか?」
あれ、これ雑誌に書いてあった通り?なんて思いながら瞳を伏せる。このままだったらキスくらいしてもらえるんじゃあねーかなぁ、なんて期待。
「…伏し目がちだから?…睫毛長いね…」
クッションを抱く俺にぐい、と顔を近づけてくるななこさん。瞳を持ち上げると、視線がばちりとぶつかった。恥ずかしくて思わずクッションに顔を押し付ける。
「なんスかもー…」
「?…構って欲しくてこっち見てたんじゃないの?」
「…いや、そーじゃあなくってよー…」
「じゃあなんで?」
ぐい、とさらに詰め寄られて、俺はしぶしぶ雑誌を読んで試してみようと思ったんスよー…と白状した。
「…へぇ、それってホットドッグみたいなhow-to本ってやつ?」
「…ッちげーよ!なんでそんなこと知ってんだよアンタはァ!!」
ぼふ、と手元のクッションをななこさんに投げ付ける。彼女は受け取ったクッションを足元に放り投げ、空いた手で俺の顎を持ち上げた。
「…なんだ、誘ってるんじゃあないの?」
ふ、と意味深に降ろされた視線がひどく色っぽい。思わず生唾を飲み込むと、ななこさんは悪戯の成功した子供みたいに満面の笑みを見せた。
「…なっ…からかったんスか!?」
「…流し目って仗助くんが言うからやってみたんだけど。」
どう?色っぽい??なんて笑う姿はさっきまでとはまるで別人みたいだと思う。悔しいけど、伏し目がちに流し目を送るななこさんの姿に、俺のハートはがっちり掴まれちまってる。
「…すげー…色っぽかったっス…」
「…ありがと。…でもね、」
ななこさんは俺の唇にそっと口付けて、それからまた悪戯っぽく笑った。
「仗助くんの方がずーっと色っぽかったよ。」
…ってことは、ななこさんのハートもがっちり掴めたんだろうか。
ななこさんの流し目が俺に効果テキメンだってバレちまったのはまずかったかもしれないけど、彼女が俺と同じように思ってくれてたら嬉しいな、なんて思いながら俺は彼女の腕を勢い良く引き寄せた。
20160630