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「#寸止め」のBL小説を読む
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鬼だって盛大に笑う

「なぁななこ、やっぱ祭りってのは万国共通でこうも混むもんなのか?」

鳩羽色の浴衣を着たポルナレフが、少しばかり興奮した面持ちで言葉を紡いだ。人混みのせいか普段よりも距離が近い。

「フランスの祭りもこんな感じなのかい?」

私への問い掛けだったはずなのに、私を間に挟むように歩く花京院が言う。こちらもくっついてしまいそうな程の距離だ。二人で会話するなら私を挟まずに話してくれればいいのにと、少し歩くスピードを落としてみたら、両脇の二人も同じようにペースを落とした。

「人混みっつったら似たようなもんだけどよォー、なんつーの?テンション?が違うよな!」

ユカタのおねーちゃんは可愛いしよー、なんて軽く笑ったポルナレフは、私に小さくウインクなんてしながら、「ななこも普段よりずーっと可愛いぜ」と耳元で囁いた。
ポルナレフの声は祭りの喧騒で花京院には届かなかったらしいが、私が赤面したことで大体の文脈は伝わったのだろう。腰をぐい、と引かれて下駄がカラコロと不規則な音を立てた。よろけた私に「大丈夫かい?」なんて声を掛ける花京院は、自分が元凶だなんて気にも留めていないのだろう。

「…花京院、歩きにくい。」

「浴衣のせいじゃあないのかい?」

「…どう考えたって花京院、テメェの手のせいだろうが。」

ポルナレフが私の不満の声に気付いて反対側から花京院の腕を払ってくれた。ありがと、と珍しく隠れた首筋に顔を向ければ、どういたしましてマドモワゼル、なんて。

「でもさぁ…三人で横に並んでたら、周りの迷惑だと思うんだけど。」

よくぶつからずに歩けるな、と周りを見れば、ただでさえ目立つガタイに加えて浴衣に似つかわしくない色味の鮮やかな髪が余程人目を惹くらしく、私たちの進む先はモーセの海よろしく人混みが割れていた。
承太郎は特段興味なさそうな足音を立てながら後ろから付いてきているようだった。まぁ、足音なんてなくたって、向かいから歩いてくる女の子たちが色めき立つのを見ればわかるのだけれど。

「まぁいーじゃあねーか、オレは可愛いななこを近くで見てたいワケよ。」

「ポルナレフの悪手からななこを守る義務が僕にはあるからね。」

「はぁ!?どっちがだ!」

祭りの喧騒に負けない煩さが私の頭の上を飛び越えていく。相変わらずの喧嘩だなぁと思うんだけど、なにも私の両側でやらなくったっていいじゃあないか。

溜息と共に踵を返し、承太郎の隣に逃げ込む。私が抜け出したことに同時に気付いたらしい二人は「あ!」と声を上げて振り返る。すかさず承太郎が「止まるんじゃあねーぜ、邪魔だ。」と一喝し、二人はお前のせいだとかなんとかぎゃあぎゃあ言いながらも再び前を向いた。

「…暑苦しい奴らだぜ、って思う?」

「…どうだかな。」

まぁ、ななこのその格好ならわからんでもない、なんて意味深な言葉を吐く承太郎の、涼しげに開いた首筋に星を探した。
私の位置からでは見えなかったけれど、浴衣の首筋からチラリと見えたりした日にはどれほどの破壊力かなと思う。

「あ、あれ食べたい!」

そんな思考はあっさりと食べ物の前に陥落するあたり、私の目的は祭りではないのかもしれないな、なんて。

わたあめの屋台に駆け寄る私に大の男三人が続き、途中で屋台に興味を示したポルナレフが私を追い抜いた。下駄が歩きにくいとか言ってたのは誰だポルナレフ。

「うおー、なんだこれ!?食えるのか??」

「『わたあめ』だよポルナレフ。」

わたあめ、と噛み締めるように呟いたポルナレフは、おじさんがふわふわの砂糖を箸に巻き付けていく様をまるで子供のように凝視している。

「ください!」

わけっこしよう、と言えば満面の笑みで頷かれ、思わず私の頬まで緩んでしまう。おじさんが渡してきた袋を受け取るように促せば、ポルナレフは両手で仰々しく袋を受け取り、あまりの軽さに目を丸くしていた。

「ぅお、なんだこれ!軽いなぁ!!」

「開けて開けて!」

「…座ってからにしろ。」

承太郎に一喝されてしょぼくれる私たちを他所に、花京院が「射的やろうよ!」なんて隣の店の前から手招きしている。彼はなんというか、マイペースだ。

「射的なんてやったことない!」

「…僕にまかせてよ。」

伊達にゲーマーじゃあないんだ、の言葉の通り、花京院くんはすこぶる腕が良かった。
「ポルナレフもやってみるかい?」なんて不敵に笑う花京院の挑戦を勢いよく受けたポルナレフの叫びが聞こえる。

「なんだよこれ!すげー難しいじゃあねーか!!」

性に合わねーぜ、と早々にサジを投げたポルナレフは、まだ残ったコルクを承太郎に渡した。「やれやれだ」なんていいながら弾を込める承太郎は、ホントはやりたかったんじゃあないのかな、なんて。

「オラァ!」

ぽこん、と間抜けな音に私たちは思わず苦笑する。射的のおじさんは承太郎の声に驚いて固まっているのと、情けなく転がるコルクの対比がまたおかしい。

「承太郎にもできないことってあるんだねぇ。」

「…うるせえよ。」

見えないのをいいことにスタープラチナを出そうとしてるから、慌てて止めに入る。それを見てもしや花京院くんもエメラルドスプラッシュを…なんて思ったけど、彼の実力はどうやら本物のようだった。ぱちん!と軽快な音を立てて当たるコルクの弾は、緑色なんかじゃあない。

「…ななこは、どれがいい?」

僕は打つのが楽しかっただけだから、と花京院が私に景品を選ばせてくれた。それは嬉しいけど急に言われても…と戸惑っていると、キラキラ光る星が触角みたいについたカチューシャを見つけた花京院が、これにしなよ、なんて笑いながら私の頭にくっつけた。

「可愛いんじゃあねーの。宇宙人みたいでよォ!」

「…思ったより似合うね…!」

こんなところに鏡はないから見えないけれど、揶揄われているのはわかる。もー!と上を向けば、くっつけられた星がびよびよと揺れるのが伝わってきた。なんだか子供に戻ったみたいだ。

「悪くねぇな。」

笑う二人とは対照的に真面目な声が降ってきて、思わずそちらを向く。承太郎の趣味はよくわからないけれど、彼がお世辞を言うような人間でないことはわかる。

「…ありがと、花京院。」

機嫌を直したのもつかの間、「…これで迷子にはならねーだろ。」と呟いた承太郎の言葉で、子供じゃあない!と頬を膨らませる。

「…色っぽいぜェーななこ、子供にゃあこんな色気は出ねぇよ。」

「そうだよななこ、なんなら嗅ぎたいくらいさ。」

二人の慌てたフォローに思わず吹き出した。花京院が変態染みてたのは聞かなかったことにしようと思う。

「…ジジイが待ってる。そろそろ行くか。」

承太郎が浴衣にそぐわない腕時計を眺めながら言う。それを聞いて私たちはジョースターさんのことを思い出し、口々に彼が場所取りを申し出た不思議について話し合った。

「…花火大会ならワシに任せろ!なんてどういうことなんだろーね?」

「あのじーさん、大丈夫なのかぁ?」

「ジョースターさんのことですから、何かあるんでしょうか。」

そんなことを話しながら、待ち合わせ場所に向かう。途中で焼きそばやらたこ焼きやらに釣られて、しばらく掛かってしまったけれど、どうやら花火の時間には間に合ったようだ。それにしたって待ち合わせ場所が屋台の喧騒からほど近いビル街なんてどういうことなんだろうか。

「…いないね?」

「時間は大丈夫なはずだが…」

この辺りのビルは飲食店が多いらしく、みんな花火の客を当て込んで店先にテントを出したりしていた。そうでなくても賑わいは普段の比ではないのだろう。どこも大盛況だ。
四人で辺りを探していると、不意に上から私たちを呼ぶ声がした。

「おーい、ここじゃ、ここー!」

「「え!?」」

みんなで声のする方を見上げると、ビルの一室からジョースターさんが手を振っていた。

「ジョースターさん!?」

「早く上がって来んか、料理も酒もあるぞい。」

驚く私たちに承太郎だけが納得したように頷いている。それに気づいた私が不思議そうな視線を向けると、彼は溜息混じりに「じじいのビルだ。」と言った。

「ジョースターさんが不動産王って冗談じゃあなかったのかよ!?」

「すごーい!!ジョースターさん!!!」

口々に騒ぎながらビルに入ると、そこは外の喧騒が嘘のように誰もいないレストランで、私たちが座るであろうテーブルだけに所狭しと料理が並んでいた。

「…すげーなじーさん!!」

「…祭りにしちゃあ悪趣味じゃあねーのか。」

「…そんなら降りてもらったっていいんじゃぞ?承太郎。」

「…大人気ねぇぞ、じじい。」

そうこうしていると花火が始まり、ドーン!という音がガラス越しに聞こえる。

「…おぉ…ブラボー…!!」

「…綺麗!すてき!」

すごい贅沢!!と喜ぶ私に、ジョースターさんは悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「ななこのために用意したんじゃが…気に入ってもらえたかの?」

「…とっても!!」

笑顔で頷けば、ジョースターさんは「なんならこの後、」と言いかけ、承太郎に睨まれて苦笑いしていた。

それからレストランの料理やら、さっき買ったわたあめやら焼きそばやら、なんとも不思議な取り合わせの食事を囲んだ。
ポルナレフだけじゃあなくてジョースターさんもわたあめは初めてだったらしく、喜び勇んで食べたていたものの突然「OH MY GOD!」と叫んだ。聞けばヒゲがべたべたになったらしい。砂糖まみれのヒゲはさぞや甘いことだろう。

そんなこんなで大騒ぎしながらみんなと見る花火は、普段と違うのもあってとても綺麗で、私は思わず「来年も見たいな」と溜息を吐く。

本当に小さな呟きだったはずなのだけれど、喧騒から切り取られた静かな部屋では全員の耳に届いてしまったらしく、皆が一斉に「もちろん!」なんて頷くもんだから、私は思わず来年の花火大会の天気まで心配してしまった次第である。

20160807


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm