「花京院くん、スタンドって知ってる?」
「…どうしたんだい?急に。」
僕も、死ぬ前は持ってたよ。と花京院くんは笑う。そうして、私がどうしてスタンドを知っているかについて、詳しく聞かせて欲しいと詰め寄った。
私は、空条くんのスタープラチナが見えたことを花京院くんに説明する。スタンドのことは、空条くんに教わった、とも。別に後ろ暗いことなんて何もなかったはずなのに、それが密室で二人きりだったことは、言えなかった。
「…じゃあ、ななこもスタンド使いになったのかなぁ?」
「…べつに、何か不思議な力を得たとかそういうのはない…けど…」
空条くんのスタープラチナみたいなものが側にいるとか、そういうのはないし、特に何か特別な力を得たとかもない。…もし使えるとしたら…何がいいかなぁ。
「…僕に触れるようになったりしないの?」
「…まさか。」
冗談交じりに差し伸べられた花京院くんの手は、しっかりと私の肩を掴んだ。
「「え、」」
お互い目をまん丸にしながら顔を見合わせる。私も花京院くんと同じように彼の肩に手を伸ばすと、確かにそこに、硬い学生服の布があった。
「…ななこ。」
ほんとうに幸せそうな顔で、花京院くんは笑った。そうして勢いよく私を抱き締める。
苦しいほどに力を込められて、何度も名前を呼ばれた。
「…花京院くん、」
「…やっと、触れられた。」
祈りのような言葉が、胸に響いた。行き場のなかった手を花京院くんの背に回して、彼と同じように力を込める。学生服の向こう側に息衝く肌があることを手のひらで確認するように、彼の背を撫でた。そこにはしっかりと人間の身体があって、思わず戸惑いの言葉が零れる。
「…なんで、急に…」
「ななこがスタンド使いになったから、かな?…よくわからないけど、それよりさぁ…」
もっと大切なことがあるんじゃあないかな、と花京院くんは笑って私に口付けた。そうして「こんなことなら、承太郎に渡すんじゃなかったな」なんて。
「…そうだよ、花京院くんのばか…」
「酷いなぁ。…そんなことを言う口は塞いでやらなきゃね。」
花京院くんは楽しげに唇を歪めると、そのまま私のそれに重ねた。ぬるりと舌を捻じ込まれ、湿った音を響かせながら口内を探られる。空条くんの時とは違う、余裕のない口付け。苦しいのは、強く抱き締められているせいか、それとも、花京院くんだからか。
「…んッ…、かきょうい…っ…たぁ!!」
「ッごめん!大丈夫かい!?」
ごち、といい音がして目の前に火花が散った。痛む後頭部を庇うように体を起こすと、花京院くんが慌てて私の身体を支える。その様子がなんだかおかしくて、思わず声を上げて笑った。
「…花京院くん、慌てすぎだよ…」
「笑わないでくれよ…仕方ないだろ、初めてなんだから…」
恥ずかしげに眉尻を下げながら花京院くんはそう言った。私を含め、彼をかっこいいと思っていた子は多かったはずなのにどうして、と驚きの視線を向けると、彼は困ったように瞳を伏せた。その仕草にもなんだか驚いてしまう。
「…え、」
「…嫌、かな。」
思わず声を上げた私に、上目遣いでちらりと視線をよこす花京院くん。なんだか捨て犬でも見つけたような気分だ。
「嫌じゃないよ…突然床にひっくり返されるのは困るけどさ…ぁ、」
恥ずかしくて尻窄みになる言葉を、花京院くんの唇が遮った。ちゅ、と軽い音を立てて私の唇を掠める。
「…良かった。それじゃあ、ベッドに行こう?」
そういうと彼は私を抱き上げた。不意に体勢を崩されて驚いた私が花京院くんにぎゅうとしがみつくと、彼は幸せそうに「せっかく触れるんだから、大人しくしてくれよ?お姫様」なんて笑った。
「…ッ、よくそんな恥ずかしいこと言えるよね…」
「恥ずかしくなんてないさ。」
好きなんだから、と花京院くんはまた恥ずかしい台詞を平然と唇に乗せて、私をそっとベッドに横たえた。そうしてやけに真剣な瞳でもう一度噛みしめるように「好きだよ、ななこ」なんて。
「…わ、たしも…」
心臓が言葉と一緒に口から飛び出してしまうんじゃあないだろうかってくらい、どきどきと脈打つ。花京院くんは私のボタンに手を掛けたけれど、彼も緊張しているのか、うまく外せないみたいだった。あれ、おかしいな…なんて慌てたように呟いている。
「…花京院くん、」
「…やっぱり、承太郎みたいにはできないな。」
確かに、空条くんはボタンに戸惑うことなんてなかった気がする。訳のわからないまま翻弄されてしまった私は、よく覚えていないのだけど。
「…妬いてる?」
「そりゃあ…もちろん。」
小さく問い掛ければ、少しばかり苦笑しながら肯定の言葉が返ってきた。やっとボタンが外せたらしく、花京院くんは安堵の溜息を付いた。そうして、私の肌を確かめるように指先を這わせる。
「でもっ…花京院くんの自業自得ってやつだと思うんだけど。」
私はともかく、空条くんは巻き込まれただけだ。それなのに嫉妬されるとかひどい話じゃあないだろうか。と、言ってやりたかったのだけれど、花京院くんの指先で胸の先端を摘まみ上げられてしまった私の唇は、嬌声しか零さなかった。
「…ッあ、…花京院ッく…んっ…」
「ねぇななこ。僕…チェリーが好きなんだ。」
何のことか分からずに花京院くんを見たら、彼は「ほら、ここにあるからさ」なんてエロオヤジみたいな台詞を吐いて、舌先でレロレロと何度も転がした。
「…や、ぁっ…チェリーは、ぁ、花京院くんの方じゃ、あッ…ないの…」
「…随分言うじゃあないか、ななこ」
カリ、と歯を立てられて身体が跳ねた。痛みのはずなのに、身体がひどく熱い。抗議の言葉なんて紡げるはずもなく、されるままに甲高い声を上げた。
「…ッや、あっ、ん!ッ…」
「…可愛い。…ね、僕…そんな声聞かされたら、優しくしてあげられそうにない…」
花京院くんは切羽詰まった声でそう告げると、私のスカートを捲り上げた。慌ただしい所作のせいで一気に現実に引き戻されてしまってなんだか恥ずかしい。花京院くんはひどく興奮した様子で、私の下着を取り払い、指を滑り込ませた。
「…ッ…、」
「…ななこ…」
比べるつもりはないのだけれど、空条くんは余程手馴れていたんだな、と思う。それでも、花京院くんの切羽詰まった様子だけで胸がいっぱいになってしまうのだから、私も大概だ。
「…好きだよ、ななこ…ッ…」
もう待てないとでも言うように、花京院くんは指先を引き抜き、自身を押し込んだ。
「…ッう…ぁ、花京い…っんく…」
みしみしと音がしそうだ。粘膜が引き攣れて痛くて、押し付けられた熱がひどく苦しい。けれど耳元を吐息が掠めるたびに、胸が熱くなるのは花京院くんだからなんだろうか。
「ななこ、ッ…ごめ…」
譫言のような謝罪を口付けで流し込み、花京院くんは私をぎゅうと抱き締めた。そのまま一気に貫かれ、悲鳴にも似た音が唇を割く。
「ぅあぁぁッ…、やぁ…」
「ごめん、ッ…泣かないで…。…好きだよ…ッ、好きなんだ…」
容赦無く打ち付けられる熱から逃げることなんかできなくて、必死に花京院くんの背に縋る。力を込めた指先の、私の薄い爪が彼の背に刺さる感触が、花京院くんがここにいる印みたいで、嬉しかった。
20161106
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bkm