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「#幼馴染」のBL小説を読む
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7.君に頼みがある

「…ねぇ、それ、なに?」

ななこの部屋のベッドサイドに、見慣れぬ物があった。僕がそれに視線を投げかけたまま彼女に問えば、彼女もまた、問いを返した。

「…なんだろうね、花京院くんわかる?」

ななこは可愛らしく小首を傾げながら笑っている。持ち主にすらわからないのか、とそれをまじまじと見つめる。オルゴールのようなラジオのような…とにかく何やら音の出そうな年代物の綺麗な箱。

「…わからないなぁ…どうしたんだい?これ。」

「親戚の遺産整理?とか何かで出てきたらしくてね、綺麗だからもらったの。」

音は出ないみたいなんだけど、と彼女は笑った。はにかむようなその表情がすごく可愛くて、僕は自分で聞いておきながらそんなものどうでもよくなってしまう。その箱から視線を外して、ふぅん、となんとも気のない返事を返した。

「あ、そうだ。…僕さぁ、君に頼みがあるんだけど。」

「…?なぁに?」

悪戯を考える幼子みたいにこちらに寄ってくるななこは可愛い。この表情が、今からの僕の話でどんな風に変わるのか考えただけでゾクゾクしてしまうなんて、僕はどこかおかしいんじゃあないだろうか。 彼女は僕を軽蔑するかもしれないし、嫌いになるかもしれないのに。

*****

「…というわけでさぁ、ななこ…」

自分でも、おかしいと思う。
けれど、ななこがいつか僕の知らない誰かと、なんて考えるだけで嫌だし、考えたくもない。

だったらせめて、せめて。




花京院くん、と僕を見つめるななこは、困ったような顔をしている。困らせているのはもちろん僕だ。

「…お願いだよ、ななこ。」

僕だって、いつまで君のそばにいられるかわからないんだ。そう言うと彼女はひどく傷ついたような顔をした。僕が一度、彼女の前からいなくなっているという事実を反芻してでもいるのだろうか、彼女は悲痛な面持ちで瞳を伏せて吐息をついた。

「…わたし、が、空条くん、と…」

ぽつりと零す言葉の意味を、彼女はまだ計り兼ねているのだろう。ふわふわと現実味のない単語は、空中を漂って消えた。

「承太郎は僕の親友なんだ。…だから、心配しなくても大丈夫さ。」

安心させるように微笑むと、彼女は泣きそうな瞳をこちらに向けた。あぁ、可愛らしいな…なんて思う。唆られるのは庇護欲でもあり嗜虐心でもあるのだろう、僕はなんとも複雑な高揚を感じながら、言葉を続けた。

「本当は…僕がしたいんだよ。…でも…」

ゆっくりと彼女に近付く。ななこはきゅうと目を閉じて、まるでキスするみたいな顔。
けれど僕たちは決して触れ合わない。このまま、目を開けたまま彼女に重なってしまったら、僕にはなにが見えるんだろうか。彼女の中身が見えたりしたら、それはそれで面白いんだけど、なんて。

「…花京院くんっ…」

「…ホント、残念な話だよね。」

ななこの声に身体を離す。何度試したって同じ。その度に現実を突きつけられて悲しくて、心のいろんなところが麻痺してしまったのかもしれないな、と思う。

「…お願いだよ…僕のワガママだってことは、重々承知さ。」

「…でも、私…花京院くん以外と…なんて…」

「…ごめん、僕だって本当は嫌だ。…けど、君が…僕がいなくなった後誰かに奪われることを考えるともうそれしか残ってない気がするんだ。」

君には幸せになって欲しいから、僕がいなくなったら誰か他の人と幸せになって欲しいんだよ。だけど、だけどさぁ…
勢い良く捲し立ててみても、途中で言葉を見失ってしまう。結局全部僕のワガママなんだから、彼女に伝えられることなんてない。独占欲の筈なのに、独占しないだなんて馬鹿げているし、恋人なのに他の男との性交をお願いするのだって絶対におかしい。そんなの、わかってる。

「…ねぇ、いいだろ…?」

縋るような視線に、彼女は泣き出しそうな瞳で頷いた。
ななこは、承太郎に抱かれることを了承した。僕の眼の前で。
倒錯した欲望に、背筋がざわつく。



20160503


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm