「承太郎!」
「…花京院。」
ななこは比較的真面目に授業に出たり友達とお昼を食べたりするから、屋上でサボる承太郎のところによく行くようになった。
だって嬉しいじゃあないか。彼女も友達もいる幽霊なんて、探したってそうそういるもんじゃあない。
「…聞いてよ承太郎。ななこがね、」
「…おう、」
うっとおしいと一蹴されるかと思ったのに、承太郎は文句も言わず僕の惚気話に相槌を打つ。時々面倒くさそうにするから、別に興味はなさそうだ。きっと僕に話す相手がいないこと、心配してくれてるんだと思う。ホントいい奴だよ承太郎。
「それでさぁ、触れられないのが辛くって。」
「…そうなのか?」
「そうなんだよ、ほら。」
承太郎の肩に手を置いてみる。本来であれば肩の上で止まる手が、そのまま下に擦り抜ける。承太郎は少し驚いたようにそれを見て、いつものように「やれやれだぜ」と言った。
「…どうしたらいいと思う?」
キスしたり抱き締めたりそれ以上のことだってしたいのに、と溜息をつけば流石にそんなことを言われても困ると思ったのか承太郎は吐き捨てるように言葉を落とした。
「知るか。」
「冷たいなぁ、承太郎。友達なら俺がなんとかしてやるとかないわけ?」
親友がこんなに悩んでるのに、と承太郎を見る。彼は彼で何か思うことでもあるのかその長い睫毛を伏せた。
「手ェ出すなっつったのはてめーの方だろうが。」
「それはそうだけどさぁ、応援するのと彼女に手を出すのとはまた別の話…、」
そこまで言って、ひとつ思いついた。それが「いい」か「悪い」か判断するよりも先に、僕は思い付いた言葉をそのまま承太郎に投げかけた。
「そうだ。…承太郎がさぁ、僕の代わりにして、見せてよ。」
僕が彼女に触れられるのが一番いいけど、どうせ無理ならせめて彼女の可愛らしい姿を見たい。だっていつかはきっと、ななこは他の誰かと一緒になるんだから。
ずっと僕と一緒にいられるわけじゃあない。僕が17歳で命を落としたように、いつ何があるかなんてわからないし、何より彼女には、こんなこそこそと僕と会うんじゃあなくて、いつか普通の幸せを掴んでもらいたい。僕のワガママが少しだけでも叶うなら、せめて僕が信頼する承太郎に。
「…花京院、お前…」
「…馬鹿な男だって思うかい?」
自嘲気味に笑って見せれば、彼は困ったように帽子の鍔を下ろした。彼がななこをどう思っているかは知らないけれど、少なくとも興味はあるだろう。彼女は可愛いし、承太郎の取り巻きたちみたいな「うっとおしい女」ではないから。
「…ななこはお前が好きなんだろうが。」
馬鹿言ってんじゃあねえぜ。
あぁ、確かに馬鹿げた話だと思うよ承太郎。けれど僕がこうしてここにいることだって、十分馬鹿げた話じゃあないか。
「じゃあ、ななこがいいって言ったら、いい?」
承太郎の言葉は、彼女の同意があれば問題ないように聞こえた。まぁ同意があったって大問題なのかもしれないけれど、こういうのは本人たちの合意さえあれば咎められるもんじゃあないと僕は思う。少なくともここでは、彼女の同意だけが足りていない。
「…どうだかな。」
曖昧な答えを残して承太郎は立ち上がる。これ以上聞きたくないと思ったのかそれとも、僕の話に心が揺れているのか。
真意の見えない彼の背中に向かって、僕は叫んだ。
「ななこがいいって言ったら、よろしくねー!」
20160129
安定の変態院。