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沈黙で吐く嘘

夏が来た。

「海行こうぜェ、海!!」

億泰くんが楽しそうに言う。そのデカイ図体からは想像が付かないほど子供っぽい。

「暑いしね、もう今すぐにでも泳ぎたいよ。」

「康一くんは、ビキニとワンピースどっちが好き?」

「由花子さんならどっちでも似合うと思うけど…」

カップルは相変わらずいちゃいちゃしている。暑いんだからやめて欲しい。

いつも一番に億泰くんに乗っかるはずの仗助くんが、今日は静かだった。

「…仗助くん?」

気になって瞳を向けると、ハッとしたように笑う。

「いいんじゃねぇの!海!みんなで行こーぜ!」

へらへらと笑って言うものの、ほんのりと違和感。そんなに乗り気じゃないみたい。
他のみんなは気がついていないみたいだけど、私は自分で言うのもなんだけど仗助くんが大好きすぎて、彼の髪の一本の乱れにだって気付く自信がある。

「ななこはどんな水着にすんの?俺楽しみだなァ〜」

からかわれて我に返った。
もう見ているだけじゃなくて、彼女ってポジションでみんなといられるんだなぁと思うと、ものすごく幸せな気持ちになる。

「仗助くんはどんなのが好き?」

照れながらそう返すと、億泰くんから非難の声が上がった。

「おめーら、いちゃいちゃしてんじゃねー!!!」

*****

「海だーーー!!!」

「億泰ゥ、最初はゆっくり入るんだぞ!」

もうなんかとんでもないハイテンションでもって、億泰くんは着ていたシャツを脱ぎ捨てた。由花子と康一くんも、それに続く。

「行かねぇの?」

「仗助くんこそ。」

私たちはTシャツを着たまま。パラソルの下で、二人で牽制し合う。
なんのにらみ合いなんだこれ。

「海なんて入ったらよォ、この仗助くんのカッピョイイ髪型が崩れちまうじゃねぇか〜。」

戯けて髪を撫で付ける仕草をした仗助くんは「だからななこだけで行ってこいよ」と続けた。

「私、水が得意じゃないんだよね。泳げないし…だからさ、波打ち際でお城作ろうよ!」

そう言うと仗助くんの手を引いた。
彼は多分、「脱ぎたくない」んだと思う。

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「おめーら随分と可愛らしいコトしてんなァ。下に水着着てんなら脱げばいいのに。」

「セクハラでーす!それに仗助くんは私に付き合ってくれてるだけだもん。今日はお揃いのTシャツなんだ!」

えへへ、と笑ってみせると億泰は私と仗助くんの服を見比べて「なんだよバカップルめ!」と言い捨てて去っていった。

別にデザインが同じでもないシャツを「黒だから」という理由でお揃い認定した億泰くんのバカさ加減が今はありがたい。

「…ななこ、」

驚いた様子で言いかけた仗助くんの言葉を遮って笑う。

「ね、次は何する?みんなでビーチバレー?」

*****

初めて抱かれた時の事を思い出す。
仗助くんは、恥ずかしがる私を脱がせて全身を確認するように愛撫した。
快感ではない、何か別のモノを探しているみたいに。それがひたすらに恥ずかしかったので、とても印象に残っている。
一通り確認すると彼は安心したように笑って、首筋に胸に唇で痕を残した。

彼が何か事件に巻き込まれて入院していたことは知っていたので、多分そのせいなんだろうとあまり気に留めなかったけれど、よく考えたらその時の傷が残っていてもおかしくない。
裸で抱き合っているのに気づかないなんて…と思ったけれど、いつも翻弄されてわけがわからなくなってしまうし、かといって確認のために彼を行為に誘う勇気は私にはなかった。

でも多分、私の予想は間違ってはいない。
現に彼は海でもTシャツを脱がないんだから。

*****

「ななこ、強ェな〜!」

5人でビーチバレーだったので、1人を審判にして交代でチームを組んだ。
私がいる方が必ず勝つので、億泰くんが感嘆の声を上げる。

「運動神経には自信あるんだよね!」

ふふん、と自慢気に鼻を鳴らす。
スポーツ万能、実は泳ぎも得意だったりする。その分勉強はできない。
体育は男女別だし、『水が苦手』なんて嘘吐いたって大丈夫。

「よーし、いっくよー!仗助くん!私の愛のサーブ、受け取って!」

「いやいやマジ、無理だってェ!!!」

ばしーん!と軽快な音を立てて、私の愛は仗助くんの顔面に激突した。

「うわ、ごめん!!!」

「愛が痛いぜ、ななこ…」

自慢のリーゼントが乱れたのに、仗助くんは気にせず笑っていた。
もちろん、みんなも。

*****

たっぷり遊んで、そろそろ帰ろうと支度を始める。

各々荷物をまとめていると、仗助くんが隣に来て、私に聞こえるように呟いた。

「あ〜あ、イイ彼女持って俺って幸せだなァ〜。」

「…愛のサーブ、顔面キャッチだもんね。」

答えにならない答えを返すと、仗助くんは小さく「ありがと、な。」と呟いた。

「仗助くんのためなら何発だって打つよ、愛のサーブ。」

なんならテニスでもいいよ!と続けると、少しだけ困ったように眉を寄せて、髪を撫でてくれた。潮風を浴びた髪は、ベタベタして気持ち悪いだろうに。

「愛のサーブよりもォ、そのTシャツの下の水着が見てえなァ〜。」

ぺろりと捲られて、つい悲鳴を上げてしまう。私の声にみんながこちらを向いた。

「可愛い水着じゃない、ななこ。なんで見せなかったの?」

「恥ずかしいから!!!もー、帰るよ!!」

そういえば、折角買ったビキニは仗助くんに見せるためだったなと、少しだけ残念に思う。けれど、彼の優しさを少しでも手伝えたんなら、これでいいんだよね。

燦々と注ぐ太陽に少しだけ切なさを感じながら、私たちの夏の日は終わった。


萌えたらぜひ拍手を!


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