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子供っぽいと言われても

「…あれ、仗助くん。」

ドゥ・マゴのテラス席。灰皿とタバコをお供にコーヒーを飲んでいると、見知った髪型の少年が駆け寄ってきた。

「ななこさん!一人でお茶っスか?俺も座っていい?」

「どうぞ。」

私の返事を聞く前に、彼は人懐こい笑顔を向けながら席に着いていた。

「タバコ、吸うんでしたっけ。」

「…ん、」

曖昧に返事を返せば、彼は少し照れながら私の手元のタバコを見た。

「俺も、吸ってみよーかな。…承太郎さんとかカッコいいし。」

「学ランで外で吸ったらマズイでしょ。」

「…じゃあ、ななこさんちでならイイっすか?」

仗助くんのしたり顔を見て、彼の目的はタバコではなくきっと私の部屋なのだろうと気付く。

「…残念、うち灰皿ないのよ。タバコ吸わないから。」

「えぇー!?じゃあ、手元のそれはなんなんスか。」

火のついたタバコを指差しながら仗助くんは不満そうだ。
でも本当に、私の部屋に灰皿はない。だってこのタバコとライターは、さっきそこのオーソンで買ったばかりなんだから。
友人にコーヒーとタバコの親和性について熱く語られ、つい興味本位でためしてみようと思ったんだけど、まさか見つかってしまうとは。

「…承太郎さんがカッコいいから…吸ってみようと思ったの。」

そう言って笑えば、仗助くんは不満そうな顔を更に不満でいっぱいにしてこちらを見る。

「…じゃあ、今…ください。」

「…だから…」

溜息で吐き出した煙を補給するように、タバコを一口。吸った煙を吐き出す前に、突然仗助くんに抱き寄せられる。火が彼に触れないように、慌ててタバコを遠ざける。
叱咤と共に私が吐き出そうとした煙は、仗助くんの唇に飲み込まれていった。

「…っ…苦いっスね。」

「…あのさぁ…危ないでしょ。」

自慢の髪が焦げちゃったらどうすんの、と窘めれば、彼は悪戯っ子のように笑って言った。

「そしたら、ななこさんに責任取ってもらうっス。」

「…やれやれだぜ。」

せっかくタバコもあることだし、承太郎さんの真似をしてみる。

「…似合わないっス。ななこさんにはぜーんぜん、似合わねー。」

タバコを取り上げられて、火を消される。
まだ半分以上の長さを残したタバコは、仗助くんの手で灰皿にぐしゃりと押しつぶされた。

「…なんでよ。」

不満そうに見つめれば、私よりずっと不満顔の仗助くん。

「承太郎さんなんかじゃなく、俺にしてください。」

「…リーゼントは似合わないと思うの。」

誤魔化すように呟けば、彼は少し慌てて言葉を繋いだ。

「そうじゃなくて!…その、承太郎さんの真似するななこさんが嫌っつーか、…ななこさんの唇に一番多くキスするのがタバコになるっつーのも…俺は嫌っス。」

言いながらみるみる頬が赤く染まっていく。
なんだかとんでもない口説き文句に聞こえて、私の頬まで熱くなる。

赤い頬を誤魔化したくて新しいタバコに手を伸ばしたけれど、仗助くんに指を絡め取られて届くことはなかった。

「…それに、そーやって大人だってこと、俺に分からせないで。」

色の薄い、綺麗な瞳に射抜かれて、どうしていいかわからなくなる。握られた手が、熱い。

「…仗助くん…」

「…俺、すぐ大人になるから。少しだけ、待ってて。…頼むよななこさん…」

ぎゅっと、心を締め付けられるような声。
大人びて見えても、まだ子供だってことを気にしているのか。タバコが吸えない年齢だってことを。

「…待たない。」

そう言うと仗助くんは、すごく悲しそうな顔をした。離れる手をぎゅっと握り直す。

「…ななこさん?」

「…仗助くんは、今のまんまでも充分カッコいい、と…思う…」

待たなくたって、そのまんまで充分だよ。
宥めるように言えば、キラキラと輝きを取り戻す瞳。

「じゃあ…俺と、付き合ってください!」

ストレートな言葉に、心臓を射抜かれる。
まっすぐで可愛らしくて、男らしい。

「…よろしく…お願いします。」

「グレート!」

幸せそうに笑って、じゃあこれは初デートっスね!なんて言われてしまう。

「それじゃあ、二人でパフェでも食べる?」

「あーん、ってしてくれます?」

「調子に乗らないの。」

「だって俺、嬉しくって。」

頬が緩みっぱなしの仗助くんはなんだか普段より幼く見えて、こちらの頬まで緩んでしまう。

仗助くんの笑顔に絆されて、結局二人で一つのパフェをわけっこして食べた。

大人びたタバコよりも、チョコレートパフェの方が好きかもしれない。


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm