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にっぽんは、すきですか?

じじい甘裏




「わしは日本が嫌いじゃ!なんなら日本人も嫌いじゃ。」

ジョースターさんは駄々っ子みたいに言う。いい歳したジジイが、と承太郎が呆れたような声を上げ、続けてポルナレフが言う。

「そんなこと言ってよォー、娘さんが取られたのが気に食わねえってだけじゃあねーのか。」

その言葉はどうやら図星だったらしい。話には良く聞いていたけれど、余程大切な娘さんなんだなと私は頬を緩めた。私も子供が嫁ぐ時には妬いてしまうんだろうか、なんて想像もつかない未来を思う。嫁ぎ先が全く知らない異国とあって、ジョースターさんは余程心配なんだろうな、というくらいしか思いつかない。

「…でも、日本はいいところですよ!」

私が必死に日本の良さを語ると、ポルナレフは俺も行ってみたいなぁ、と援護してくれる。ジョースターさんは不貞腐れた顔で「そうやって皆でジジイをいじめおって!」なんて言うもんだから、思わず吹き出した。

*****

エジプトから戻った日本は、退屈なほどに平和で。なんだかんだでジョースターさんは承太郎の家にいるらしく、私も良く遊びに行かせてもらっている。寒さも和らいだ頃に、私はふと、ジョースターさんは未だに日本が嫌いなのだろうかと思い至る。

「…まだ、日本は嫌いですか。」

「…急にどうしたんじゃ?」

ぽつりと呟いた私を、ジョースターさんは不思議そうに見つめた。ブルーグリーンの涼やかな瞳が私の心に一陣の風を吹かせる。承太郎よりも子供みたいなくせに、すべてお見通しみたいな目が好きだなと思ったら急に恥ずかしくなって、慌てて視線を逸らした。

「…以前、日本が嫌いだって…」

「…あぁ、そんなこともあったのう。」

そういえば日本のいいところを教えてくれるんじゃあなかったか?と返されて、そんなこと言ったっけなと考える。思い当たることはなかったけれど、いい機会かもしれないと思い直して、私はジョースターさんに言った。

「…じゃあ、一緒に出かけましょうか。」

「喜んで。…行こうかマドモワゼル。いや、シニョリーナかのう?」

私が誘ったはずなのにエスコートするみたいに手を取られ、驚いているうちにずんずんと進んでいく。ジョースターさんはなんというか、羨ましい程に自由だ。

「…散歩でもします?それとも、買い物?」

隣を歩くジョースターさんを見るには、だいぶ首を持ち上げなければならない。私は彼の表情を見ることを半ば諦めつつそう問いかける。

「…ななこはどこへ行きたいんじゃ?」

「私は、ジョースターさんと一緒ならどこへだって。」

いつも揶揄われているから、たまには意趣返しでもしてやろうと思ってそう笑えば、繋いだ手に力が籠ってどきりとする。

「…だったら、悪いジジイに騙されてくれんかの?」

またタチの悪い冗談なんだろうか。精一杯頭を持ち上げてジョースターさんを見ると、彼は意外にも真面目な顔をしていた。

「…それは…どういう…」

ジョースターさんは答えもせずに、私の手を引いてずんずんと歩いていく。

*****

「お、ななこ。これはなんじゃ?…随分と派手な建物じゃのう。」

繁華街の一角で、ジョースターさんは立ち止まった。私は彼の指す建物を見てぎょっとする。まるで西洋の城のような外観は、ごちゃごちゃとした街の景色の中でもしっかりと目立つ、所謂ラブホテルだ。
ジョースターさんに何と説明しようか言いあぐねているうちに、彼は私の手を引いてドアをくぐった。

「ちょ、ジョースターさんッ…!」

「…おぉ、これはまた…」

私の制止の声は全く聞かず、彼は目の前に広がる大きなパネルを興味深そうに見つめた。そこには部屋の写真が所狭しと並んでおり、幾つかのパネルは明かりが消えている。ジョースターさんが一つのパネルを選ぶと、選んだ場所の明かりが消えた。あぁ、光ってないところは使用中ってことか…などとこの先さして役立たなそうな知識に妙な感動を覚えていると、彼は私の手を引いてエレベーターへと向かう。

「…ジョースターさんっ、あの、」

「…なんじゃ?」

「ここ、はッ、その、私たちが来るようなところでは…」

エレベーターの扉が閉まるのとほぼ同時に、私の視界が暗くなる。両手で囲われて口付けられたと理解したのは、唇に柔らかい感触がしてから。

「…知っとるよ。」

その一言は、この建物のことなのか、それとも、私の恋心のことなのか。見透かすような瞳を見つめることが怖くて、私は彼の胸に顔を埋めた。

*****

「ななこ。」

いつの間にやら脱がされてしまった肌の上を、ジョースターさんの手が這う。いつの間にやら、なんて言葉はただの言い訳で、私に流されてもいいなんて下心(こうなってしまった以上、恋心と呼べるほど綺麗なものじゃあなくなってしまった)があったのは多分事実で。化粧で肌を隠すように自然に上塗りしたはずの虚構は、衣服と一緒に剥がされてしまった。

「…ジョースター、さん…」

吐息交じりに小さく呼べば、幸せそうな瞳が私を映す。自分で呼んだはずなのに恥ずかしくて顔を背ければ、ひんやりとした左手が私の頬に触れた。

「なんじゃななこ、可愛い顔して。」

そのまま軽く口付けられ、思わず目を閉じる。くすりと笑うジョースターさんの吐息がくすぐったい。啄むように重ねられた口付けが、首筋へと降りていく。暖かな指先が胸元を掠めて思わず小さな悲鳴をあげると、彼はその大きな手で私の胸をそっと包み込んだ。

「…っは、ずかしい…です…」

「ここまで来ておいて、随分なヤマトナデシコもいたもんじゃな。」

きゅう、と先端を摘まれて背がしなる。意味のない音を零す唇を、冷たい指先がそっと撫でた。

「…っん…いじわる…」

ジョースターさんは私の言葉なんて聞いていませんとでも言いたげに、その顔を胸に埋めた。摘まれてぷくりと主張した先端をまるで飴玉でも舐めるみたいに舌で転がされ、その度に身体の芯がピリピリと痺れた。

「…いいところを、教えてくれるんじゃろ?」

この場合の「いいところ」はそんな意味ではないはずだ。抗議の声を上げたいのに私は先程からジョースターさんの手に飜弄されるばかりで何の言葉も紡げない。

「…あ、んッ…ぅ…」

いやいやと首を振ると、ジョースターさんは「それならななこの身体に聞くとしよう。」なんて意地悪な台詞を吐いて、私の身体のあちこちに指先を這わせ始めた。

「…ジョースターさん、ッ…」

「…なんじゃ?」

左手が、冷たい。それだけで、目を閉じていてもジョースターさんだとわかるから、私にはもう逃げ場なんてない。

もう逃げられないのなら、飛び込んでしまおう。

「…すき、です…」

小さく呟けば、彼は驚いたように目を丸くして、それから心底幸せそうな顔で私に唇を落とした。首筋に腕を回してぎゅうと力を込めると、白く柔らかな髭が私の頬を擽った。

「…わしもじゃ、ななこ。」

告げるのももどかしげに唇を重ねながら、ジョースターさんは暖かな指先を私の中に沈めた。粘着質な水音が耳に響いて、掻き消すように声を上げる。

「…っあ、…ぅ…」

「…ななこ。」

内壁を緩やかに撫でられて、腰がヒクつく。ジョースターさんの指が浅いところを何度も行き来して、もどかしさに吐息を漏らせば、彼は悪戯っ子のような瞳で囁いた。

「…どこがイイ?」

「…っは、…やぁ、いじわる…ッ…」

腰を押し付ければ、彼はそのぶんだけ手を引っ込める。本当に意地悪だ。どうして欲しいかなんて、よくわかってるから、そんなことをするに違いない。
まだわずかに残った冷静な私がいくらそう考えたところで、焦れた熱が収まるわけもなく。吐息の合間に名前を呼べば、飲み込むように口付けられる。

「…奥っ…もっと、…」

やっとの思いで吐き出した言葉が、耳にこびりついて恥ずかしい。きつく瞼を閉じるのと、指先が引き抜かれるのはほぼ同時だった。

「…じょ、すたーさん…?」

「指じゃあ届きそうにないからのう。」

そう言うと彼は私の頬に唇を落とし、猛った欲望を私に押し込んだ。

「…っひぁ、あっ!」

一息に貫かれて、ひときわ高い嬌声が響く。恥ずかしくて仕方ないのに、私の唇は勝手に音を紡ぎ、ジョースターさんは荒い息を隠す事もせずに私の中を掻き回す。
吐息の合間に呼ばれる名前が自分のものであることを確認するように、私は彼を抱き寄せた。

「…ななこは、可愛いな…」

「すきッ…、すき、です…っん…」

何もかもぐちゃぐちゃになって、溶けてしまいそうな身体を支えるようにしがみつけば、それよりもずっと強い力で抱き返される。
律動はどんどんと激しさを増し、揺さぶられる度に脳髄が痺れる。

「…ななこッ…」

「や、ぁっ、…も、…だめぇっ…!」

そうして私は、世界から切り離された。

*****

「…っ、う…」

柔らかく髪を撫でる感触と聞きなれない曲に瞼を持ち上げると、心配そうなジョースターさんの顔。

「…大丈夫か?」

「…っ、だいじょー、ぶ、…です…」

喉に張り付く音を無理矢理に引き剥がしたような声を聞いて、彼は苦笑いしながら私を抱き起こし、水を差し出した。

「すこしばかり無理をさせたか…?」

「…ッ、」

その言葉で、気を失う前のことを思い出し、顔が熱くなる。集まった熱を冷ましたくて、私は慌ててコップの水を流し込んだ。

「…もう少し休むといい。」

ジョースターさんは、しかし日本には面白いものがあるのう、なんて呑気に笑っている。落ち着いて辺りを見渡せば、彼があちこち触ったらしいことが見て取れた。先程から聞こえている耳触りのいい音楽は英語で、どうやら枕元のスイッチを弄ったらしい。

「…あの、」

「なんじゃ?」

さっきまでのことが嘘のように普段通りのジョースターさんは、すっかりいつもの服を着て、涼やかな顔で私を見ている。

「…ゆめ、?」

あまりに拍子抜けしてそんな言葉が零れたけれど、ジョースターさんは「そんなわけなかろう?」と私を指差した。指し示す身体がシーツしか纏っていないことに気付いて慌てて布団に潜り込んだ。

「…うぅ、私ばっかり裸なんて恥ずかしいです!」

「…それはわしに脱げということか?」

くすくすと笑ってそう言われて、余計に恥ずかしい。頭まで被ったシーツを勢い良く剥がされて、思わず悲鳴を上げた。

「きゃあ!…ちょ、ジョースターさん!」

「…本当に、可愛いのう。」

口付けが一つ降ってくる、それだけですごく幸せで。私は悔しくて彼にぎゅうと抱き着いた。







「…それで結局、日本は好きになったんですか。」

「それはまた、「教えて」くれるってことか?」


20160420


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm