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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -

手を繋ぎたいの。

長いような短いような旅を終えて帰ってきた日本。平和過ぎる毎日にも寒い冬にもようやっと慣れてきた頃、ジョースターさんに買い物に誘われた。
なにやらプレゼントを選ぶのを手伝って欲しいという。

「丁度ななこくらいの歳の子なんじゃが。」

「それなら喜んで手伝いますよ。」

そうして私たちは買い物に出掛けた。
ショーウィンドウを眺め、ああでもないこうでもないと話しながら歩くのはとても楽しくて、私はやっと帰ってきたんだなぁと思いながら子どもみたいにはしゃいでいた。

「あ、ここなんてどうですか?」

ジョースターさんは到底入れなそうな可愛らしいお店。日本製が売りのコスメブランドで、値段は少しばかり高いけれどそれ以上の使い心地だと評判は上々だ。
実は私も少しばかり憧れていたりする。まぁ自分のお金で買おうとなると多少尻込みしてしまう額なのでまだ買ったことはないのだけれど。

「これは可愛らしい…。化粧品か?」

ジョースターさんは驚いた顔をして、これはななこを連れてきて良かったと私の頭をぽんと撫でた。

「ハンドクリームとかなら、似合うとかないし…いいかなって。」

でも香りが沢山あるな、と目の前にずらりと並んだ色とりどりのチューブを眺める。
気になったもののサンプルを取って塗ってみたり香りを確かめたり、せっかくだしと楽しんでいると、ジョースターさんが手持ちのカゴに端から一つずつ放り込んでいるのが見えた。驚きに思わず声を上げてしまう。

「え、もしかして全部あげるつもりですか!?」

「…そうじゃが?」

当然だ、という視線が返ってくる。お金持ちの考えることはわからないけど、そんなにハンドクリームばかりもらっても使えないことくらいは気付いて欲しい。

「ジョースターさん、そんなに沢山買っても手は二本しかないですし、それにあんまり沢山貰ったらお返しに困っちゃうと思いますけど…」

そう言えば彼は納得したように頷き、カゴにあったチューブたちを棚へ戻した。

「そういうもんかのう。だったらななこはどれがいいんじゃ?」

「…うーん…私だったらこれ、かなぁ…」

目の前にある色とりどりのハンドクリームから、はちみつの香りを選んだ。
甘い香りは思わず食べてしまいたくなるほどだし、つけ心地もしっとりしていて好きだと思う。それに薔薇やジャスミンみたいに好き嫌いの分かれる香りでもない。ジョースターさんのプレゼントの相手に好みを聞いてしまうのが一番だと思うのだけど、それが叶わないから私がここにいるわけで。

「…プレゼントの相手って、誰ですか?」

「ん?…あぁ、可愛い子じゃよ。」

それでも少しばかり気になって聞いてみればさらりとはぐらかされてしまった。私くらいの歳の可愛い子、なんて一体どんな関係なんだろうか。アメリカに帰ったら渡すのかな、と思ったらすごく寂しくなった。

ジョースターさんは、いつ帰ってしまうんだろう。

いつの間にか視界からジョースターさんの姿は消えていて、人の多い店内の筈なのに一人ぽつりと取り残されたような気持ちになる。
この店内では目立って仕方ない彼を探して視線を泳がせていると、後ろから肩を叩かれた。

「ぅわ、…ジョースターさん。」

「…ありがとう、ななこ。無事に買えたぞい。」

そう言うと彼は悪戯っぽく笑って私の目の前に可愛らしい紙袋を翳した。いい大人の癖にまるでお使いに成功した子供のような仕草に思わず頬が緩む。

「良かった。それじゃあ出ましょうか。」

寂しさを振り払うように踵を返して、私は店を後にした。ジョースターさんは紙袋に視線を何度も落としてななこに頼んで良かった、と満足げに微笑んでいる。

「…今日はありがとう。」

「…喜んでもらえるといいですね。」

「多分驚くじゃろうなー。」

そう言って笑いながら、ジョースターさんは私の目の前に紙袋を差し出した。

「これは、ななこに。」

「…え、」

ぽかんとする私に向かって、彼はしてやったりといった笑顔を向ける。

「…今日付き合ってくれたお礼なんじゃがの…」

「あ、ありがとうございます。でも…」

これをもらってしまったら、彼の手にはもう何も残らない。私と同じ年頃の可愛い子へのプレゼントっていうのはなんだったんだ。
私の視線に気付いたのか、ジョースターさんは両手を広げて顔の横に上げた。犯人が投降するときみたいな、白旗のポーズ。

「…ななことデートがしたかったんじゃ。騙して悪かった。…楽しかったよ。」

「え、…ええっ!?」

確かにジョースターさんの言う条件は(可愛いというのはちょっとアレだけど)、「私」でも何らおかしくない。でもまさか、そんな。

真っ赤になった私を見て、ジョースターさんは嬉しそうに笑った。

「その反応は、もしや『脈アリ』というやつかの。」

「…からかわないでください…」

俯いてしまった私の髪を、大きな手が優しく撫でた。

「もし…ななこがお礼をくれるっていうなら、今度はちゃあんとデートに誘ってくれよ。」



20160104



萌えたらぜひ拍手を!


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bkm