「ジョースターさんってさぁ、このメンバーの平均年齢上げてるとは思えないカンジよね。」
「確かに、承太郎のじいさんっても俄かに信じがたいカンジするよなぁ〜。」
私がそう言えば、ポルナレフが賛同する。
見た目こそナイスミドルな感じはするものの、中身は若々しくて私たちの話にも全然普通に混ざれちゃうし、まるで気のいいお兄さんみたいな。
今日だって、みんなで恋バナしてたらいつの間にかジョースターさんも混ざってて驚いた。
「ワシは昔、それはそれはいい女に出逢ってのぉ…」
なんて話し始めるものだから、みんな興味深々で。『誕生日に出会った謎めいた少女』なんて、荒唐無稽(スタンド使いの私達が言うのもなんだけど)な話はまるで冗談みたいだったけど、最強生物を宇宙に放り投げたのが本当なジョースターさんの話ならきっと、真実なんだろう。何よりも、その話をするジョースターさんのまるで恋する乙女みたいな熱の篭った瞳が、嘘ではないと語っていた。
ジョースターさんは格好良くて、私は密かに好きだなぁって思っていたりする。
まぁ好きって言っても恋い焦がれているというよりは憧れかなと自分では思っているんだけど。
だから、その「イイ女」ってやつになりたいなぁって思いながら、眠りについた。
*****
「…ねぇシニョリーナ、俺とデートしなぁい?」
「…へ?」
夢の中で私は、なんだかガタイのいいイケメンに声を掛けられていた。
「…君、東洋人?…俺の言ってることわかるゥ?」
状況がまったく飲み込めずにぽかんとしていると、目の前のお兄さんはなんだかとても軽いテンションで私に向かって言う。
「ハッピーうれピーよろピくねー!はい!」
「よろピくね…?」
なんだかすごいテンションで押し負けそう。
凛々しい眉と飛び跳ねた前髪が印象的な彼は、私の知っている人によく似ていた。
「よくできましたァン!俺ジョセフ!君は?」
「私は…ななこです。…ジョセフ…?」
凛々しい眉と碧い瞳が承太郎に似ているような気がしていたけど、ジョセフって、もしかしてジョースターさん!?
「うん、ジョセフ・ジョースター。ジョセフでイイぜー。」
「や、っぱり、なんで…」
ジョースターさんの恋バナなんて聞いたからそんな夢見てるのかなと思ったけど、なんだか夢にしてはすごくリアルで面白い。
「なんでってェ、ななこが可愛かったからナンパしたんじゃん。」
「あ、りがと…。ねぇジョセフ、どこに連れてってくれるの?」
ジョースターさんの若い頃なんて見たことないハズなのに、夢ってすごいなー…と思いながらも、この際楽しんでしまおうと彼のがっしりとした腕に抱きついた。
指先を絡めようとして、左手だってことに気づいた。ちゃんと義手なんてやるなぁ私の夢。
「…あれ、驚かないの?」
「なんで驚くの?…名誉の負傷でしょ?」
「なんで知ってんのォ?」
ジョセフはキョトンとした後に、まぁいっかァ!と可愛らしく笑った。思わずドキリと心臓が跳ねる。
「私、ジョセフのこと知ってるの…って言ったら、驚く?」
「それがさァ、ななことは初めて会った気がしないんだよなぁ〜。」
そうして私たちはまるで恋人のように手を取り合って、街を歩いた。
一緒にコーラを飲んで、ショーウインドーを覗き込んで、見つめ合って。
時々既視感を覚えるのは、ジョースターさんの話を思い出すから?
ジョセフは面白くてカッコ良くて、憧れのジョースターさんよりずっと私に近くて。
「こんなこと言うのおかしいかもしれないけどさぁ、俺…ななこのこと、好きになっちゃったかもー…なんて…」
ほんのり赤い頬をしたジョセフが恥ずかしそうに愛の言葉を囁いたのは、夕日がビルの間に隠れて、あたりがオレンジから群青に変わる頃だった。
「私も、ジョセフのことが、好き…。多分、ジョセフよりずっと前から…」
こんなに醒めないで欲しいと思う夢は、多分、後にも先にもないと思う。
ビルの陰に引き摺り込んで、貪り合うように唇を重ねた。
ぽってりとした唇は温かくて柔らかくて、本当に夢なのかなって、現実なんじゃあないのかなって。だって私を抱き締めるジョセフの腕は、こんなにも力強い。
「…っん、…ジョセフ…」
ぎゅうっと抱き返すと、唇を割り開いて舌が入ってくる。息が出来なくて頭がぼうっとするくらいに口の中を犯されて、抱き付いていたはずの手はいつの間にか縋り付くみたいに彼の服をぎゅっと握っていた。
「…かーわいー顔しちゃってェ。…食べちゃうぜ?」
唇を離した彼は悪戯っぽく笑って言った。
でも私は、いずれジョースターさんたちの所に戻らなきゃいけなくて。たとえ夢だとしても、ここで抱かれてしまったら多分元には戻れないから。この腕の中はとても魅力的だけど、私は戻らなきゃ。
「…ジョセフ…ね、これあげる。…誕生日おめでとう。」
以前ジョースターさんが、私のピアスに強い興味を示していたことを思い出して、付けていたピアスを片方外して掌に握らせた。
驚いた顔のジョセフが言葉を発する前に、彼のお得意の台詞を真似する。
「お前は次に『どうして俺の誕生日を…』と言う。」
「…どうして俺の誕生日を…ーーハッ!?」
いっつもジョースターさんにからかわれているお返しができたと溜飲を下げ、私意外と根に持つんだなぁ…承太郎のこと言えないな、なんて考えていると、再びジョセフに抱き込まれてしまった。
「…きゃ、」
「…行かないでよ。ななこ…」
閉じ込めるみたいにぎゅっと抱き締めて、置いて行かれる子供みたいな声で縋られると、戻らなきゃって気持ちが揺らぐ。
「…また逢えるから、心配しないで。」
背伸びしても唇には届きそうもなかったので、抱き締める手を取って指先に口付けた。
「…ななこ…ッ…」
「さよなら、またねジョセフ!」
腕を潜り抜けて、走り出す。振り向いたらダメだと自分に言い聞かせて、必死で走った。
夢なんだ、早く覚めてよ、と思いながら走っていると、足元の段差に躓いて勢い良く転んだ。視界が暗転する。
*****
「…いっ…たぁー…」
瞳を開けるとそこは見慣れぬ天井で、どうやらホテルのベッドから転がり落ちたらしいと知る。
あぁ、やっぱり夢だったな…と少しばかり落胆しながら起き上がる。時計を見ると朝の5時、まだみんな眠っているだろう。
「…すごい音がしたんじゃが…大丈夫か?」
コンコン、とドアが叩かれて、同時にジョースターさんの声。そういえば今日の隣室は彼だった。起こしてしまって申し訳ないなと思いつつ、ドアを開けると彼は心配そうに私を見た。
「じょ、ーすたー…さん…」
今までと変わらない視線のはずなのに、ジョセフのことを思い出して赤面してしまう。柔らかくて熱かった唇から、目が離せない。
私が惚けているのを心配したのか、彼はもう一度「大丈夫か?」と言った。
「…すみません…寝ぼけてベッドから落ちたみたいで…」
「…気をつけないと危ないだろ…おや、ななこ…ピアスはどうしたんじゃ?」
言われて耳を触ると、確かに片方のピアスが無くなっていた。夢の中でジョセフにあげてしまった、私の手作りのピアス。ジョースターさんが以前にどこで買ったのかと聞いてきて、手作りだといったらひどく驚いていたそれ。
大切にしてたのに寝ぼけてどこかに投げ捨ててしまったのかな…などと考えていると、ジョースターさんはツカツカと部屋に入ってきて私を抱き締めた。
「…あ、のっ…」
「『また逢える』って、言ったのはななこだろ?」
「…え、あ、れはッ、夢の…」
そう、夢のはず。ジョセフに会ったのも、デートしたのも口付けたのも全部、私の夢の中の話で…
「会ったんだな?俺に。」
「…ジョセフ…!?」
抱き締められて顔が見えないせいで、まるで夢と同じなジョセフ。ジョースターさんとは口調が違うなって思ってたけど、それはてっきり夢だからだと。
「…ななこ、今だけでいいから、夢の続きを見せてくれよ…」
切なげな声とともに奪われた唇。
体温も柔らかさも声も、夢と同じ。唯一違うのは、ジョースターさんの髭がくすぐったいってところくらい。
「…っん…ぅ…ジョセフ…っ…」
溢れた唾液が顎を伝うのも気にせずに貪り合っていると、ドアの向こうでポルナレフの声がした。
「…ななこー、なんかすげー音がしたけど大丈夫かぁー?」
「…大丈夫じゃよ。寝ぼけてベッドから落ちたそうじゃ。」
唇を離したジョセフはすっかりいつものジョースターさんで、力の入らない私を抱き留めながらポルナレフに返事を返す。
「…あれ、ジョースターさん!?」
「ぶつけてたからの、心配で様子を見ておったんじゃ。」
「…ジョースターさんいるから大丈夫、ポルナレフはまだ休んでて。」
ポルナレフは「まったく…気をつけろよぉー、」とあくびしながら部屋に帰っていった。足音が遠ざかるのを聞いて、ジョースターさんに向き直る。
「…どうして、」
「目が、今までと違う。…それに…ピアス、くれたじゃろ?…けどななこは、ずっと両耳にピアスをしていた。」
確かに、夢の中で私はピアスを片方ジョセフにあげた。でもそれはついさっきの夢で、ジョースターさんが私にあったのは、もう数十年も前の話。
「…変なの…」
「わしにもよくわからん。スタンド攻撃にしては…何も無さ過ぎるし、敵じゃあないようじゃが…」
ジョースターさんの言う通り特に変わった様子もなく、何かが変わったとすれば、私がジョースターさんを見る瞳と、気持ちくらい。
「…あの、ジョースターさん…」
依然抱き込まれたままの状態が恥ずかしくて、彼の広い胸を腕でぎゅっと押す。
けれど腕は解けることなく、抱き締める力が強くなる。苦しい。
「…逢いたかった…」
「えと、あの…」
「ななこには夢の出来事かもしれんが、わしにとっては…現実で、」
ぎゅう、と音がしそうなくらいに抱き締められる。聞こえてくるドキドキは私の心臓か、それともジョースターさんの心臓の音か。
「…ジョースターさん…」
「…ジョセフ、って…呼んでくれんかの…」
ああもうそんなこと言われてしまったら、私はどうしたらいいんだろう。
ジョースターさんは旅の仲間で、憧れのお兄さんなのに!目の前に私が恋したジョセフ・ジョースターと同じ瞳があるなんて、この先一体どうしたら!
再び落とされた口付けの柔らかさに、思考がどんどん溶かされていく。
ああもうどうにでもなってしまえ!と、私は彼の首筋にしがみついて舌を差し出した。
20150927 HAPPY BIRTHDAY!
prev next
bkm