花京院からセクハラされたりイチャイチャしたり
ななこは、可愛い。
セーラー服から見える細い腕も、意外に長い足も。ふんわり柔らかそうな髪も、チェリーみたいな唇も。どこを取っても、僕を惹きつけて止まない。
本人にその自覚はなく、ちょいちょい刺激的な格好になるのが、またいい。…まぁ、他の男の目もあるから結構心配ではあるんだけど。
「…花京院くん!」
ぶんぶんと手を振りながらこちらに駆けてくるななこ。思いっきり腕を上げて振るもんだから、セーラー服の裾から脇腹がちらちら見えて眩しい。
見えてるよ、よりも先に触りたいと思ってしまった僕は駆け寄るななこを抱き留めると脇腹にするりと手を這わせた。
「…ねぇ、さっきからチラチラ見えてるんだけど。」
「うひゃ、ごめん花京院くん!」
彼女はぴくりと身体を跳ねさせつつも、やだやだくすぐったいよ、なんて呑気に笑い声を上げている。
「…もう少し色っぽい声の方が、僕はいいと思うんだけど。」
首筋に唇を寄せても、くすぐったそうに笑うばかりで抵抗らしい抵抗はない。女の子同士のじゃれ合いみたいなもんだと思ってるんだろうか。だとしたらなんて危機感のない。
「…花京院くん、もうやめてよ、くすぐったいよ!」
外だから、とかそういう理由じゃあないところがなんともななこらしくて、僕は彼女をぎゅっと抱き締める。「苦しいよ、」と抗議の声を受けてようやく手を離せば、ななこは可愛らしく「もう!」なんて言って頬を膨らませた。
「…さて、今日はどこに行く?」
「ゲームしよう、ゲーム!」
ぴょこぴょこと飛び跳ねてながらそんなことを言っている。ななこはその見た目に反してゲーマーで、僕らは学校帰りにゲームセンターに行くのがお決まりのデートみたいになっている。
「…じゃあ、僕の家に来る?」
新作のレーシングゲームが、まで言ったところで彼女は目をキラキラさせながら「行く!」と即答した。
あからさまな下心さえゲームの前では霞んでしまうのが嬉しくも悲しくもあり。僕の心中は結構複雑だったりする。
*****
「わー、すっごいねぇ…!!」
僕の部屋に入るなり彼女は感嘆の声を上げ、本棚に並ぶゲームソフトに抱き着かんばかりの勢いで駆け寄った。
男の部屋に入ってそれはどうなの、と思ったけれど喜ぶ彼女が本当に可愛くて、取り敢えずななこの期待に応えてあげようと僕はゲーム機の配線を確認して、スイッチを入れた。
「…対戦する?」
「え、それ完全に私が負けるよね?」
新作だから僕も初心者だよ、と言ってもななこは信用しないらしく、ハンデ戦ならいーよ、なんて可愛らしい笑顔を向けた。
「…じゃあ、ハンデはななこが決めていいよ。」
「…よし、じゃあこれで勝負だ。」
マシンの選択が終わったななこは、おもむろに僕の膝の上に陣取った。
「…え、?」
「…花京院くん、勝負だよ!」
僕の戸惑いを無視してレースを始めるななこ。いや何このハンデ。むしろご褒美じゃあないのかい。
「…ふふん、見えにくいだろう!」
ななこは僕がスタートしないのを見て満足そうに言うと、意気揚々とマシンを走らせた。
「…ねぇ、これさぁ…もうレースより気になって仕方ないんだけど。」
耳元で囁きかけるとななこはうひゃ、なんて間抜けな声を上げた。コントローラーを放り出して逃げようとする彼女を抱きしめる。
「ちょ、花京院くん!勝負は!!」
「え?そんなの僕の負けでいいよ。」
首筋に音を立てて吸い付けば、ななこは驚いてコントローラーを取り落とした。走る車のいなくなったコースに急かすようなBGMだけが残る。抵抗しようとする手を捕まえて振り向かせ、唇を重ねた。
「…ッん…ーー…、」
引き結ばれた唇が緩むのを見計らって舌を捩じ込む。逃げ惑うななこの柔らかな舌を絡め取ってやれば、鼻に抜けるような甘い吐息が漏れた。
「…ななこは男心ってもんがわかってないよね。」
わかっているとしたら、煽り方としてはほぼ完璧だ。けれどもし無意識なら僕以外には絶対にしないで欲しい。その見極めも含めてそんな風に言ってみれば、ななこは潤んだ瞳をこちらに向けて、ごめん、なんて。
「…ごめんね、何か駄目だった…?」
「…ダメじゃあないけど、…うーん…やっぱりだめ、かも。」
何がダメかと言われたらそりゃあ当然僕の理性とか、可愛すぎてダメだとかそういう方面の「ダメ」なんだけど、それが彼女に上手く伝えられるかといったら、全くもって自信がない。
「…花京院くん…?」
あぁほらその不安そうな目とか。思わず抱き締めたくなって、彼女の身体をぐいと引き寄せた。
「…本当に君ったらもう…、」
今更かもしれないけれど、僕は本当にななこが好きなんだって、この腕の中からどこにも行かせたくないんだって、そう思ったんだ。
「愛してるよ、ななこ」
告げる言葉の代わりに、もう一度彼女の柔らかな首筋にキスをした。
20160717