私が、決めなくちゃいけない。
誰かに助けてもらうのでも、強制されるのでもなく。
*****
「先生、私…やっぱり先生とは一緒にいられません。お待たせしたのにスミマセン…」
「…フン、仗助に絆されちまったってわけかよ。」
考え抜いた末に、露伴先生にそう告げる。
直接会って話すのはやっぱり怖くて、受話器越しになってしまった。
「ぼくを振るくらいなんだから、幸せにならなかったら承知しないからな!」
私の言葉を受け取った露伴先生は、流石に大人だった。いつも通りのはずの先生の声は少しだけ震えていたけれど、私は先生の優しさに甘えて、その震えた声を聞かなかったことにした。
「せんせ、…ありがとうございます…」
ぺこりと頭を下げてみても、電話口では見えやしない。それでも私は、頭を下げなければと思った。
*****
私は、仗助くんに言わなきゃいけないことがある。学校が終わる時間を見計らって、仗助くんに電話をかけた。
「あの、仗助くん。」
「どーしたんスか、珍しいっスね。」
まだ日も高いうちに、メールもなしに電話をかけることはほとんどなかったので、電話口の彼は些か驚いた様子だった。
「…今すぐ会いたいって言ったら、会いに来てくれる?」
「…もちろんス。すぐ行くんで待っててくださいね。」
理由もなんにも聞かずに、あっさりと肯定の言葉を吐いてくれる。私は彼の事情を知らないけれど、こんなに自分の都合ばかり押し付けちゃいけないような気がする。
*****
「ななこさんに呼ばれたんで、馳せ参じました!」
玄関先に立つ仗助くんは、学校帰りの出で立ちで。走ってきたのか頬が少し赤い。
「上がって。ごめんね、急に呼び出して。」
「どうしたんスか?何かありました?」
心配そうに見つめてくる彼は、本当に優しい。いつだって、自分は二の次にして私を助けてくれる。
「話が、あるの…」
「話、…なんスか…?」
固唾を飲んで私の言葉を待つ仗助くん。
真剣な瞳はとても綺麗で、思わず怯んでしまいそうになる。
「仗助くんが、好き…」
「…っ!ど、どうしたんスか急に!」
面食らった顔をして慌てている。
私は仗助くんに、今までのことを洗いざらい話した。
露伴先生のことも、自分の気持ちも。
「…露伴に…?なんでそういう危ないことするんスか。」
ピクリと、形の良い眉が上がる。
厚みのある唇がきゅっと引き結ばれ、不安げに歪んだ。
「…ごめんなさい…でもちゃんと断ったし、なんにもないから…」
「そんな心配させるようなことするなんて…ちょっとお仕置きが必要っスね。」
「ひゃっ!」
腰を抱き寄せられてソファに押し倒される。
お仕置きといいながらも乱暴にしない彼は本当に優しいと思う。
「…大丈夫っスよ。酷いことも痛いこともしませんから。」
「やっ、仗助く…」
「…ななこさん泣き虫だから、ちこっと泣いちゃうかもしんねーけど。」
そう言うと、服に手を掛けられて力任せに引き裂かれた。
ビリビリと音を立てて破れたはずの服は、私から離れたところで元の形に戻りふわりと床に落ちる。
「やっ、なに…」
気付けば私を覆っていた全ての布が取り払われていた。
目の前の仗助くんはきっちりと服を着ていて、戸惑う私を見て意地悪く笑っている。
「…いい眺めっスね。」
身体を隠そうとした手は頭の上で一纏めに押さえつけられてしまい、なんの抵抗も出来ない。無防備な肌を撫で上げられて、背筋が粟立つ。
「…やっ、離して…」
「…そんなこと言って、期待してるんでしょ?」
胸の頂を唇で柔らかく食まれる。
唇が舌が触れるたびに、そこは硬く立ち上がって甘い痺れを胸の奥に拡げていく。
「っう…あっ、…ッん…」
「気持ち良さそうっスね。」
舐められ噛まれて追い詰められていく。声が抑えられない。擦り合わせた足の間が濡れているのが自分でもわかった。
「じょ、すけく…んっ、やだ…っ!」
いやいやと首を振っても、聞き入れては貰えなかった。
脚を割り開き、私が濡れていることに気付いた仗助くんは唇の端を釣り上げた。
「ななこさんのえっち。もう濡れてるじゃあないっスか。」
愛液を指で掬って、見せつけるように舐め取る。仗助くんの紅い唇が色っぽくて、思わず溜息を吐いた。
「っは…ぁ、だって、仗助くんが…」
「…俺のせい?…ななこさんがヤラシイだけでしょ。」
唾液で濡らした指をゆっくりと挿入される。
入り口を撫でるように擦られると、もどかしくて腰が揺れてしまう。
「…やらしくなんか…ないもん…っ」
「嘘。ココ、擦って欲しくて仕方ないんでしょ?」
「ぅあ…あっ、そこっ…だめ…ッ!」
Gスポットをぐりぐりと擦られて目の前がちかちかする。身体が勝手に指を締め付けて、奥に飲み込もうと蠢いた。
「…慣らす必要ないみたいっスね。」
挿入していた指を抜くと、仗助くんはズボンの前を肌蹴させてソファに座る。それから軽々と私を抱き上げると、自分の上に跨らせた。
「心配かけたお仕置きっス。…自分で動いて、どこがきもちーか教えてください。」
硬く勃ち上がっているモノが、内腿に擦れて気持ちいい。彼はさあどうぞ、と言った様子で楽しそうに眺めている。
「っや…ぁ、できな…」
「…別に、このままでもいーっスけど。」
割れ目を擦られて、思わず声が漏れてしまう。緩やかな刺激がもどかしくて、ぎゅっと抱き着いた。
「はっ…ぁ…う、いじわる…」
哀願するように見つめても、仗助くんはその柔らかそうな唇を三日月にするばかりで、私の欲しいものは一向にくれそうにない。
「ほら、挿れてみて?」
優しく促されて、おそるおそる腰を降ろす。
中を擦られる感触が気持ちよくて膝の力が抜けそうになるのを、しがみついて堪えた。
「っは…ぅんっ…」
「そうそう、上手いっスよ…」
宥めるようにキスの雨を降らせながら、時折下から突き上げられるともうなんだかよくわからなくなる。
私はみっともなく喘ぎながら、快楽を追って腰を振った。
「ぅあ、っあ、仗助く、やっ、あ、」
「やべ、めっちゃエロいっスね…」
首筋に唇が寄せられ、きつく肌を吸われる。
ぴりりとした痛みに、感電したみたいにびくびくと腰が跳ねた。
「ひああぁっ!」
「…ななこさん、一人で楽しそーっスね。そんなに気持ちい?」
唇の端を釣り上げて、余裕の笑みを浮かべている。私一人だけが乱れている事実がすごく恥ずかしいのに、その羞恥すら快楽を煽るスパイスでしかない。
「んっ、気持ちい、仗助くん、すきッ…」
ぐりぐりと腰を押し付けるように動かせば、仗助くんの唇から吐息が漏れる。
「…ん、やあっと言ってくれたっスね。…俺も好きっスよ…」
熱のこもった低い声が、身体の芯を揺さぶった。その一言だけで仗助くんをきつく締め付けてしまう自分がひどく浅ましい。
「んッ…く、あぁっ!」
「どーしたんスかそんなに締め付けて。…好きって言われるの、そんなに嬉しい?」
意地悪な台詞とは裏腹に、安心したような笑顔。抱き締める腕は優しくて、なんだかふわふわと幸せな気持ちになる。
「んッ、うれし…い…」
ぎゅっと抱き着いて首筋にキスをする。
さっき仗助くんがしてくれたみたいに吸い付くと、首筋に紅い花が咲いた。
「…ぅあ、…も、煽んなよ…っ」
「っや、ビクって…なっ、あぁっ!…」
下から激しく突かれて、身体がガクガクと揺さぶられる。これ以上奥には入らないんじゃないかという所まで無理矢理に押し入って、抉じ開けてぐちゃぐちゃにされてしまう。
「好きっス、マジ、どーにかなりそ…な、くらいっ…」
「やぁっ、も、ダメっ!あっん、あっ、壊れちゃ…ッあ…あっ、」
「…も、出る…ッ」
「ッあ、だめっ、や、ああぁっ!」
頭が真っ白になって、最奥でびくびくと震える仗助くんに呼応するように身体が跳ねた。
*****
「…っう…あ…」
「…ごめんななこさん、…泣かないで…?」
困ったように眉を下げて、優しく髪を梳いてくれる。なんでかわからないけど、涙が溢れて止まらない。
「じょ…すけく…ん、好き、大好き…」
「俺も大好きっス。」
縋り付くように抱き着くと、優しく抱き返して額にキスをしてくれた。
「…ずっと、助けてくれてありがとう。」
「なんスかそれ。まだこれからもななこさんが寂しいときは助けますよ。」
厚みのある柔らかい唇が、瞼に落ちては雫を舐めとっていく。柔らかく絆された、雪解け水。
「…期待してる。」
そう言って笑ってみせると、仗助くんは安心したように吐息をついた。
「良かった。…意地悪してごめんね?」
「ううん、平気。」
決まり悪そうに頭を掻いて、苦笑い。
意地悪だって仗助くんは言うけど、私にしてみれば快楽に溺れていただけで。
謝られてもただ恥ずかしくて、困ってしまう。
「…でも俺、露伴の気持ち…ちこっとだけわかったかも。」
「…どういうこと?」
「意地悪して、ぐちゃぐちゃに壊してやりたいって、思ったんス。優しくもしたいけど、なんか、」
その先は、言葉が見つからないようだった。
仗助くんは小さくもう一度「ごめんね」と呟く。
「…仗助くん、ちゃんと優しかったよ。…気持ち良かった…し…」
最後は恥ずかしくて大分小声になってしまったけれど、ちゃんと彼に届いたようだった。
「俺も、グレートに気持ち良かったっス。」
ぎゅっと抱き着かれて、目の前に私が付けたキスマーク。
なんだか嬉しくて、赤い鬱血にそっと指を這わせた。
「…痕、つけちゃった。」
「…ななこさんにもついてるっスよ。」
同じようにそっと撫でられた首筋は、自分では見えなくて。
「…仗助くんの、に、なったみたいで…嬉しい。」
撫でられた箇所に自分でも触れてみる。
わからないけど、きっと綺麗な赤い花が咲いているんだろうと思う。
「…嬉しーこと言ってくれるんスね。」
じゃあ俺もななこさんのですね、と言って、仗助くんは笑った。
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bkm