「最近はどこの連中もおとなしくなってきたな」

 湯田は自分の武器の手入れをしながら退屈そうにそう言った。それを受けた同僚は溜め息を吐きながら頷いた。

「一ヶ月以上前から南の連中の話も聞かなくなったしな」
「東の連中とのやり合いの時からだろう? やられたんじゃねぇの?」
「共食いだ」

 突然扉が開き、湯田たちはそちらを見る。派手な赤髪。仲澤だ。

「なんだよそれ」
「南の中に裏切り者が居て、そいつがどっちも全滅させたんだと」
「有り得ねえだろ、普通」

 言い返してくる湯田を仲澤は表情のない目で見る。

「仲間殺して、組織全滅できるような奴がそこらにほいほい居るわけないだろ」
「おいおい」
「話によると女らしいからな。矢野を斬った奴だ」
「なんで今になってあいつが出てくるんだよ!」

 湯田は拳を壁にぶつける。

「世界は今、揺れているんだよ」

 ○

「荻野!」

 顔を上げれば、そこには大勢の仲間がいた。一人だけ先生に呼び出された私を迎えに来てくれたようだ。

「先生の話なんだった? 怒られた?」
「ばか、お前じゃないんだから」
「なんだよう!」

 あははと、みんなが笑った。みんなが笑顔だった。

(友を殺しなさい)

 ドクン、と心臓が鳴る。その音は打つ度に大きく強くなり、私の胸は破けそうになる。

(新しい世界に彼らは必要ない)

 共に戦ってきた仲間なのに。共に高め合ってきた仲間なのに。

(お前ならできる)

 私にはできない。

(お前なら殺せる)

 私には殺せない。
 ずっと一緒に居るものだとばかり思っていた。違うの? 私たちはずっと一緒に居れないの?
 縋り付くように嘆いてみるけど、目の前の現実は甘さなど欠けらも持ってはいなかった。

「どうしたの?」
「え、本当に怒られちゃったの?」
「大丈夫?」

 違うよ。ごめんね。ありがとう。みんな、大好きだよ。どんなに時間が経っても、腐敗していっても、私はみんなを忘れたりしないよ。
 だから、ごめんね

「さよならを言わなくちゃ」

 涙を流しながら得物を振り下ろす私を見るみんなの驚愕の表情を、私はずっと忘れない。

(なんで、どうして)

 共に過ごしてきたみんなを切りつける。一方的に私が殺した。丸腰の彼らに剣を向けて、逃げる隙も与えずに息の根を止めた。
 必要ない訳が分からない。どうして? どうして私が殺さなくてはいけないの?
 みんながみんな私を見て、私を怯えた目で見ている。怖い。

 ○

「みんなをあの時間に置き去りにしたはずなのに、時間が経てば経つほど……私だけが置いていかれてる気がするよ」

 帰りたいなと呟いてみても、帰る場所も迎え入れてくれる人もすべてあの日に捨ててきた。





(C)神様の独り言 2010.7.1
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