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遠くの空を見上げて思ったんだ。
この大掃除を、みんなと共にやれたらどんなに気が楽だったろうか。私一人でなかったら、どんなに楽だったろうか。
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「北側の勢力はどんどん拡大してるらしい」
「南と東が潰れてからは尚更な」
「こっちまで統治されちゃ堪んねえんだけどなあ」
人々の呟きに耳を傾ければこの世の不平不満ばかり。そんなに嫌なら自分達が動けばいい。自分達がリセットさせて、それでいいように世界を作ればいい。
やりたい奴が、やればよかったんだ。
「誰か纏めてくれる奴がいりゃあ、世界も少しは落ち着くのにな」
「いないだろそんな奴。第一、いたとして何が変わるんだよ」
無責任な発言たちに虫酸が走り、私は無言でその場から立ち去った。
世の中は不満足と不平等で成り立っているんだ。だから、愚痴る奴も居れば置かれた状況に文句も言えず働き続ける奴もいるんだ。
……私は?
「迷ってばかりじゃ、何も変えられませんよね、先生」
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「おい! どういうことだよ? ちゃんと説明しろ!」
仲澤は怒鳴りながら目の前の男の肩を掴む。
「言ったはずだ、説明はない。西軍侵略は中止だ」
「納得できるか!」
仲澤は尚も男を睨み付ける。男は面倒臭そうに溜息を吐くと、掴まれている仲澤の手を払った。
「話す必要はない。よくあることだ」
それだけ言うと男は仲澤を追い越して行く。
「あいつか」
仲澤は確信を持って訊ねるが、男は一時歩みを止めただけで答えはない。
「そうかよ」
しかし男の無言を肯定ととり、仲澤は苛立った様子でその場を立ち去った。
彼の頭にはあの時の光景が今だに鮮明に過る。
『荻野、標的は……』
『分かっているわ』
荻野は眉間に皺を寄せて険しい顔をした。それから仲澤は彼女と別れ、彼女は矢野と二人で標的がいる部屋へ入った。
『矢野! 荻野!』
標的を斬った荻野は、そのままその場にいた矢野を斬った。あまりにも自然な流れで、止めることも出来なかった。遠くから静かに見張っていた俺は思わず叫んでしまった。
屋敷の人間に気付かれ、主人の部屋に武器を持った人間が次々と現れた。
荻野はそいつらに何かを言うと一人残らず殺してしまった。それは本当にあっという間の出来事で、荻野の刀に迷いはなかった。
返り血を全身に浴びて血だらけの屍の中心に立つ彼女を、思わず怖いと思った。
帰ってきた彼女は言い訳一つしないで姿を消した。
「仲澤」
はっとして声のしたほうを見ると、そこには野上がいた。彼もまた仲澤の仲間だ。
「なんだよ、今日は楽器弾きに街に行くんじゃなかったのか?」
「やめたよ、もう。そういう気休めみたいなことは」
「は?」
野上のは背負った楽器を下ろすと、複雑そうな表情を必死に隠すように両手で顔を覆った。
「さっきな、たまたま加瀬さんと山崎さんが話してるの聞いたんだ」
仲澤は胸がドクンと鳴ったのを感じた。直感で、何かが起こることを感じ取ったのだ。
「手紙が届いたんだって。あいつから。内容は」
「西を今夜攻め落とす。邪魔をするな」
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神様の独り言 2010.7.1
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