お題 | ナノ

 随分と眩しい月が登ってる

「でな、ヅラがそこでアホな事かますんで。思わず蹴り上げた訳よ」

銀時は、高杉の話に微笑みながら話を聞いた。
聞けば、昨日桂がいつも通り電波な発言等をかましたものだから、蹴り上げて下水溝に足がはまってしまったとの事。その時の話題が物凄くくだらないので、高杉は何が発端かは忘れてしまったと後付けする。
いつもの事だと言った、桂はそういう奴だから。

「なぁ銀時、この前の話覚えているか?」

銀時はまた笑った。

当時を思い出しながら高杉は続ける。フウ、と煙管をくぐらせながら。
見上げれば空は曇っており、風も少し出てきた。追い風なので目の前にいる銀時の方へ向かったから、視線は自ずと再び銀時の方へ。

「指輪、受け取ってくれてありがとうよ」

自嘲気味に小さくそう言いつつ、小さな空の箱を開けて閉じる。てのひら程度の小さな小さな箱を空けると、中央にくぼみがあるが何も挟まれていない。高杉が銀時に送った指輪は、とても大切な意味を思っていた。思い切って以前、銀時に贈ったのだ。そろそろ自分達もいい年齢になった、いい加減身を固めたいと言いながら。
銀時は俯き、動揺し、顔を上げたり俯いたりを繰り返した後、耳まで真っ赤にさせながら遠慮がちに受け取ってくれたのだ。
眼が潤んで、せっかくの笑顔も崩れ気味な銀時は「もう俺おっさんだし旬は過ぎたけど」と、視線を合わせずにおどおどとしており、そして「・・・本当にいいの?」と囁いて。
高杉は「それでもいい、俺と一緒になってくれ」と強い目で言い切った。
銀時はその後、指輪をはめて泣いた。

お互いいい年だと言うのに、若い頃恋愛していた時のようにドキドキした。

「なぁ、銀時」

高杉は銀時を見据えた。その時の事を思い出しながら今の銀時をみやる。銀時は優しく微笑んでいた。

「頼むから何か言ってくれよ」

銀時は笑ったまま何も言わない。
写真立ての中でずっと同じ笑顔を向けたままだ。
高杉は空になった小さな箱を握りしめて、項垂れた。

「愛してる」

銀時に指輪を贈り、受け取り、泣いて泣いて泣いた後、落ち着いた銀時に向けて口にした一言をまた言った。

あの時銀時は「俺も」と短く返事をしたが、今の銀時は何も言ってくれない。

「愛してるって、言ってんだろ」

高杉の目の前にある墓前には「坂田銀時之墓」と刻まれている。

「他人の為にくたばるなんざ、テメぇらしいよな」

小さな子供を助ける為に、銀時が犠牲になったと後で桂に聞いた。
手毬を追いかけて、小さな女の子が道路の前に飛び出した。それを銀時が押しのけ、代わりに自分がはねられてしまったと。
病院に運ばれ、頑張ったがずっと意識は戻らず。
そのまま力尽きたらしい。銀時の左手の薬指には、高杉が贈った指輪がはめられていた。
一緒に火葬して、橋渡しの際小さな鉄くずになった元指輪を、骨壺に入れた。

高杉はまた銀時に「愛してる」と囁いた。若い頃の青春がこみ上げる。あの時のときめきも、異常に鼓動を打つ心拍もなかったが。あの時のようにまた高杉は、銀時に愛を囁いた。

「これからはずっと一緒だって、言ったじゃねえか」

こんなに高杉が震えているのに。銀時は変わらぬ笑顔を向けている。







++++アトガキ++++
死ネタにするなら、銀時が死んで旦那側が取り残されるようにしたい。
高杉にしても土方にしても、銀時の美味しい料理が食べたいなと思いを馳せながら、いつまでも銀時を思って項垂れてくれたらいいです。
このタイトルを選んだ理由は、「眩しい月」=「銀時」という定義がありましてですね(長時間談義)
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