小説 | ナノ

 泣かない背中

財布の中には金が入っていたので、銀時は片道切符で電車に乗った。定期的な揺れは眠気を誘う。車窓から覗く景色は目くるめく変わってゆくのだが、銀時の眼は早すぎる景色の変わりようについていけず目を離した。
誰にも、何も言ってこなかった。片道切符と財布、木刀だけ。これから何処に向かうかなんてきっと銀時自信も知らないだろう。偶然駅へやってきて、偶然目についた駅の名の切符を買った。行った事のない駅、無人駅は冷たくむき出しのアスファルト。これからどこへ行くなんて事も銀時は知らない。帰れるかも、勿論知らないと思う。

今にも落ちて来そうな重たい青の空は、くすんだ雲を流してゆっくりと回転している。風はないあの空高いあそこはとても冷たくて、とても凍える風が吹いているのだろう。鼻歌を歌いながら銀時はそのまま歩き始めた。
仕事も日常の事も全て忘れる為だろうか?只の現実逃避だろうか?どうでもいいが肌寒い。風がないのに肌寒い。季節は夏真っ只中だが夕暮れは寒いのでそのせいだ。まぁそんな事どうでも良かった。ただほんの少し気になるだけだ。

適当に歩くと昔の風景を思い出すような場所にやってきたので、銀時はふと立ち止まり周りを見渡してみる。それはただ雑草が生い茂り遠くに集落なのか村なのか、民家の屋根が見える何処にでもありそうな風景で。だが銀時は酷く懐かしがった。それは少し奥にある長屋らしき建物の屋根が、松下村塾の屋根に似ていたから。息を吸って吐いた後銀時はまた歩き出す。その長屋らしき建物の事が気になったからだ。
途中、スマートフォンが鳴って取り出すとメールが一件入っている。歩きながら銀時は画面を確認してみると、短文だが命令口調の文面がシンプルに入っていた。

『万事屋にいないようだが今何処だ。仕事もない癖に何道草食ってる』

気だるくなって返信するのを止めた。そういえば近々こっちに来ると連絡が入っていたのを忘れてた。今すぐ帰った方がいい?そんな事さえも気だるいなぁと頭の中で独り言をブツブツ言って。考えるのを止めた。近くまで歩いてみると、ただの長屋のようだった。人の気配はあまりなく、何を期待していたのか不明だが、妙にガッカリ感を抱いて銀時は立ち去る事に。来た道を戻り帰ろうかな、と考えているとまたメールが一件入ったようだ。袖の中でブルルっと振動して着信を知らせる。

『迎えに行くから場所教えろ馬鹿天パ』

3分もしない内に、そんな新しいメールが一件。また彼、高杉からだった。今度は返信してやった。少し気だるかったが。

『知らない町、知らない駅、知らない道に知らない家の前』

果たしてこれで位置が分かるか不明ではあるが、ツッコミを待つ為に立ち止まってみる。しかし、暫く経っても返信も電話も来なかった。こんな程度だよな、と軽く考えながら駅に戻ろうとしたのだが、道が分からなくなってしまい立ち往生した。一人ぼっちは慣れてるし、こんな状況は過去に何度だってあったから、始めはどうしようかなーと落ち着くことが出来たものの、集落なのか村なのか分からない家の集まりがあるだけで明かりはない。明かりがないので途端に周りは闇になる。時折ガサガサと何かが走る音、虫が草から草へ飛び移動する音を聞きながらただ立ち尽くした。

「ふざけた事しないで真っ直ぐ帰れば良かった」

駅から降りた事ではなく電車に乗った自分を呪った。2時間前の事だ、簡単にたった2時間前の自分を呪いだすと、どんどん黒い気持ちが溢れてくる。それは胸に開いた穴が泥のようにグチャグチャとなって、溢れてくるのだ。考え始めたら止まらなくなるような、赤と黒が、黄色と茶色が、沢山の綺麗な色が一つに集まると汚い色に変色し、立ち止まっているだけなのに勝手に激しく揺れるのだ。座り込んで膝を抱えると、落ち着くと思っていたのに落ち着かない。何でこんな事をしたのか自分にも分からなくて、銀時はフルフルと震えた。

そんな時だ。上からUFOの円盤が近づいてきた。円盤の下から照明のような、目も開けられないような眩しい光を当てられ、銀時は呻いた。キャトルミューティレーション?ヤバいどうしようとか考えていると、あれよあれとという間にUFOは、上から何かを下ろしそそくさと自分を連れ去ったのである。
マジモンのキャトルミューティレーション。


UFOと思っていたのは鬼兵隊の船だった。
キャトルミューティレーションの正体は高杉だった。

ピンポイントで見つけられたのは銀時のスマートフォン(正しくは高杉が契約し高杉が支払っている)に入れているGPS機能のお陰らしい。
どっと疲れた顔をしているにも関わらず、銀時は高杉に怒られた。いつも以上に怒られた。頭を数発叩かれた。そのあと、自分が着ている羽織を着せられて、丁度良く人肌だったのでとても暖かくて、誰かが用意したか不明だが温かいココアも貰った。高杉に何でこんな事をしたのかを問いただされても答える事が出来ず、口を開けたり閉じたりを繰り返し返答に悩んだ。何せ自分だって分からないのだ、それを察したのか高杉はそれ以上は何も聞かないで隣で紫煙を吐く事だけしている。

「空がさ」
「あぁ?」

怒ってはいなかった。ただ少し、高杉の声は疲れを含んでいて、銀時は何かを返される前に進めた。空も地面も、光は少ないので余り綺麗ではない。遠くでターミナルが見え隠れしているので、家ももうすぐのようだ。

「空が凄く重たかったから・・・逃げたかったの」

自分でも何を言っているのか相変わらず分からなかった。が口が勝手に動いて、意思とは関係なくて、銀時は少し困った。焦りもした。だけど目の前にいるのは高杉だったから、思い切ってもう少し喋ってみようと進めてみる。

「だってさ、あれもこれもしてるのに状況は悪くなるばっかなんだもん」

例えばゴミの分別ちゃんとやってるのに、誰かがそれを守らないせいで回りも迷惑をかけてる。プラス守らない人と同じように見られちゃう。自分は一生懸命分別して燃えるゴミ燃えないゴミ資源ゴミ分けてるし曜日ごとに出してるのに、その「誰か」と同じカテゴリに入れられる。それってずるくない?俺はちゃんと分けてるけど真面目が馬鹿を見てるじゃん。それって損じゃん。

意味不明だが、自分はこんな感じの話をしていたようだ。

「なぁ、銀時」
「俺は護ってるんだよ」

高杉が何かを言おうとしていたが、銀時がさえぎった。だが次言おうと思っていた言葉を忘れて、二人は黙り込んだ。とりあえずココアは全部飲んで、おかわりをお願いしてみると熱々のココアがカップに満たされた。ミルクココアは美味しくて温まる。銀時は分からないことだらけで、自分でも混乱はしているが確信している事がただ一つだけあった。

「俺、晋助がいてくれないと夜眠れないよ・・・飯美味しくないよ・・・怖くて家に帰れなくなるよ」
「いてやるよ、これからもずっと」

グイっと頭を引き寄せられて頭に口づけしてもらったが、不安は消えないのでもっととねだってみると、それに応える様にまたキスしてもらった。だが、銀時の胸の中で波打ったものは静かにならなくて怖かった。

「疲れちゃったの。少しだけ、忘れたかっただけなの」
「知ってる」
「でももう着くんでしょ?」
「何日もかけて寄り道すりゃいい」
「ぐっすり寝たい」
「お前が起きるまでずっと側にいてやるよ」

おかわりしたココアを飲み干して、手を引かれて高杉の自室の中へ。背中をトントン優しく叩かれながら、銀時は高杉に寄り添いながら眠りについた。

「おやすみ――――・・・銀時」

心地いい声と優しいリズム。銀時は、ようやく眠りに就けたようだ。







++++アトガキ++++
自覚がないけど本当は疲弊していて、身体が勝手に信号を放つから意思とは関係なくそんな事をしてしまった、な感じ・・・だと思います、多分。
奥田美和子さんの「あの日」イメージで

「貯金箱を割って切符を買った 行った事のない駅で降りたあの日
あの日僕は僕から旅立った 僕のいない明日が今日になる
僕等がいた昨日は昨日のまま あの空の下で続いている」

の部分を歌いながら話半分を綴っていたんですけどよく分からないものになりました。
多分この銀時は物凄く疲れているんだと思います(あれ、作文んんんん?)
(title:彼女の為に泣いた様)
++++アトガキ++++

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