乙女の聖戦日、二月十四日。

戦いは既にその前から始まってはいるのだが、当日の騒ぎの非ではなかった。
休日ならまだしも、平日の学校となるとソレはソレは悲惨である。
"誰が"と聞かれれば、当然"男子"が、だ。
人気のある男子には我先にと女子が群がり、返答するよりも先にチョコを押し付けられる。
かと言って他の男子達はというと、"友チョコ"、"自チョコ"なるものがメジャーとなった今、おこぼれすら回ってこず、男子自らが買い求める事もざらなのだと言う。
この場合どちらが幸せなのか……は、さておき。


「イヴは誰に渡すの?」

「へ?」


某学校の休み時間。例になく女子生徒達がはしゃいでいる隣で、イヴもまたバレンタイン特有の質問を受けていた。


「やっぱり、神田かラビかアレンくん辺りかしら?」

「私にあの中に入れと?」


仲いいものね。と緩い笑みを浮かべながら告げるリナリーに、微苦笑を浮かべるイヴ。
そのまま教室の隅へと視線を向ければ、そこには名前を呼ばれたうちの一人、ラビが複数の女子生徒達に囲まれていた。


「ラビはともかく、神田やアレンくんは大変そうね」

「モテルって辛いねぇ」


人付き合いが上手く、誰からも好かれるラビ。
クールと言うよりかは無愛想だが、美人とも言える端正な神田。
穏やかで人当たりの良い紳士的なアレン。
共にこの学校で最も人気のある男子生徒であり、毎年悲惨な目にあっている三人でもある。
特に無愛想な神田や、チョコが苦手なアレンにとっては厄日としか言えないだろう。


「それで、イヴは今日誰にあげるの?」


数秒程、級友であり幼馴染でもある彼らに同情していたものの、再び同じ質問を投げかけられた事で小さな溜息が零れる。
問い掛けたリナリーの瞳が、なんとなく輝いているように見えるのは気のせいだろうか。


「……秘密」

「親友なのに教えてくれないの? でも、秘密って事は誰かに上げるのは確かなのね」


ふむふむ。と、不敵な笑みを浮かべて頷くリナリーに、今度は盛大な溜息が零れる。
普段はいい子なのだが、恋愛ごとになると積極的と言うか、手がつけられないというか。
まぁ、そういう年頃、という奴なのだろう。


「そういうリナリーはアレンにあげるの?」

「あげるわよ。神田とラビにも、ほとぼりが冷めたぐらいに義理としてね」

「……さいですか」


細やかな反抗心のつもりで問い返したものの、ニッコリとした笑みをもって返されてしまう。
「これ以上聞くな」ではなく、「私には通用しないわよ」と言うかのような笑み。
眼前の少女の方が一枚上手だと踏んでは、降参と言わんばかりに軽く両手を挙げたのだった。



†††



それから直ぐに短い休み時間が終わり、更にあっという間に午前の授業が終わった。
昼休みへと入った事で再び学校中が賑わい始め、イヴもまた教室を後にする。
手には"彼"に渡す為の"アレ"を持って――。



――さて、何処に行く?

 ⇒屋上でのんびりお弁当を食べる
 ⇒学食で麺でも食べる
 ⇒購買部での死闘に加わる
 ⇒やっぱり教室で昼食にする
 ⇒授業の質問の為、職員室に向かう


 
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