名前を呼ばれて隣に座る松田さんを見上げると、彼の頬が微かに赤くなってた気がした。
そして煙草を口に含んで吸うと、息を吐く前に離して、灰皿で火を消した。

松田さんは、空いた両手で私をギュッと抱き締めてきて…
「…これで、我慢しとき」
『…!』
突然の事で驚く私をよそに、そのまま重なりあう唇。

『ん……』
「……」
優しいキスはだんだん深く激しくなっていく。
息を吸おうと口を開けると、侵入してくる舌。
絡み合う舌に感じる煙草の味。
…あ……苦い。

『んん……っぅ』
「っ……」

だけど、煙草の味がわかったのもほんの一瞬で。
松田さんの激しいキスに酔わされた私は、頭の中が真っ白になって、何も考えられなくなってしまった。
私はただキスを受け止める事しかできない。

「っ……は」
『はぁっ…』
名残惜しそうに唇が離されて、透明の糸が2人を繋いでぷつんと切れた。
頭がボーっとする……。

「…どうやった?煙草の味は」
唇を離し、ふっ、と大人に笑う松田さんに、自分でも顔が赤くなったのが分かった。

(キス…激しすぎてあんまり覚えてないよ…)
『…キス、激しくて……その、あんまり覚えて…ないから、もう一回キス……して?』

(うう…恥ずかしい…)
恥ずかしさからだんだんと声が小さくなってしまったけど、私の言葉はきちんと彼に届いたみたいで。
松田さんは少し赤くなった自分の頬を押さえてから手を離すと、詩乃ちゃんには敵わんわ、と言ってもう一度大人のキスをくれた。

「…詩乃、ちゃん…」
『んっ……ふ』

深く深く重なる唇。
…だけど、今度は煙草の味はしなかった。
深いキスで酔わされながらもぼんやりと思う。

……きっとこれは、彼の味。

flavor of…you
(…ああ、癖になりそう。)




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