「詩乃ちゃん、煙草…吸ってもええ?」 『あ…どうぞ』
松田さんの家。 お付き合いしてから初めて来た私は、緊張してしまう。 松田さんが私を見る目がいつもより大人っぽく見えたり。 静かな空気にどうしていいかわからなくなったり。
そんなとき、松田さんが「煙草吸ってもええ?」と聞いてきた。 私がどうぞ、と言うと松田さんは煙草を取り出し火をつけた。 煙草を吸って、ふう…と息と同時に煙を吐き出す松田さんの横顔がいつもよりカッコよく見えて、心臓の鼓動が一気に速くなる。
松田さんの煙草の匂いをかいで、ちょっとホッとした。 今まで煙草は好きじゃなかったのに、松田さんを好きになってから、煙草もいいなって思うようになった。
だから… (煙草って…どんな味なんだろ) つい興味がわく。 吸ってみたいな…なんて。
『松田さん、煙草ってどんな味なんですか?』 私が尋ねると、松田さんは困ったな、とでも言いたそうな表情になった。 「うーん…苦いん、かな」 『苦い……』
煙草が苦いって言うのはよく聞くけど… 答え方からして、詳しく教えたくないみたい。 なんで…? 私は松田さんの事、何でも知りたいって思ってるのに… 悲しくなってちゃだめ、と自分に言い聞かせてもう一度言う。
『ちょっと吸ってみたいんですけど……だめ?』 努めて可愛くお願いしてみる。 「うっ……いや、アカンって」 …一瞬、今迷ったよね…?
『えー…一口だけでも?』 「…アカンよ。詩乃ちゃんの体が悪うなるで」
……そんなの、 『松田さんだって…!』 「…俺?」 『松田さんいつも吸ってるし…私本当は松田さんの体が悪くなるの嫌だっていつも思ってます』 「詩乃ちゃん…」
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