『…最近は、あんまり会えてないんだ、忙しくて』
私は苦笑いして、足元を見下げた。 何だかいたたまれなくて、自分の足元をじっと見つめた。
「そうなんだ?…って言うかさ、詩乃ちゃん…何か疲れてる?」
顔色が悪いよ、と俯いた私の顔を覗き込みながら心配そうに言ってくれた亮太くんは、ポケットの中に手を突っ込んで、そこから何かを取り出した。
思わず亮太くんを見つめると、そこには先ほどまでの意地悪そうな笑みは跡形もなく消えていた。
「…詩乃ちゃん、これ。良かったら使って?」
『何…?』
亮太くんが差し出したのは、綺麗に折りたたまれたハンカチだった。
『どうして…?』
私が不思議に思って尋ねると、亮太くんは一瞬驚いたように目を見開いて、それから、ちょっと笑った。
「詩乃ちゃん、気付いてないの?…今、すごく泣きそうな顔してるよ?」
『え…?』
私が声をあげたのと同時に、涙がふくらんで、頬へ伝った。
視界が滲んで、今更ながら自分が泣いている事がわかる。
『…あはは、ごめ…ん…ね』
「…いいから」
『え……』 「無理しなくていいから」
そう言って亮太くんはもう一度、私にハンカチを差し出した。
『ありがとう…』
私はそのハンカチを受け取った。
ぼやける視界で必死に見つめた亮太くんの顔は、見たことがないほど真剣で。 その優しさに、気遣いに、どうしようもなく涙が止まらなくなって。 私は、亮太くんの貸してくれたハンカチでそっと涙を拭った。
すると、そこからふわりと甘い香りがして、私は誘われるようにその匂いを吸い込んだ。
『え…な、に……』
すると突然、ぼやけていた視界が真っ暗になった。
その直後、激しい頭痛がやってきて。
『っ…!?』
眩暈がして、地面が揺れているような錯覚が起きる。
私は立っていられなくて──思わず隣にいる亮太くんにしがみついた。
「どうしたの?大丈夫?」 『………っ』
声を出したいのに、声も出なくて。
体に力が入らなくなって、手にしていたハンカチがコンクリートの上に落ちた。
「…やっと、手に入れた」 そんな声が聞こえた気がしたけれど、それは夢──…?
薄れゆく意識の中、一磨さんが私の名前を呼んだ気がして、私はそのまま意識を手放した。
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