屋上では、強い風が吹いていて。
昼過ぎの空には、重たい雲が広がる。

天気が悪いのは残念だけど、と私は伸びをした。
ドラマ撮影の休憩時間に、気分転換にとやってきた屋上で私は息抜きをしていた。


深呼吸して、ポケットの中から携帯を取り出す。
…メールもなければ、電話もない。


はあ、とひとつため息をつく。
……考えているのはひとつだけ、多忙な彼氏、一磨さんの事。


なかなか会えないのは分かっているのだけれど、こうも長く会って話していないのは初めてで。 

お互いが忙しいからと電話は遠慮してしまうから、最近はメールばかりで。
一磨さんを見るのは、テレビや雑誌の中ばかりだ。


お付き合いをしているのに、なんだか彼が遠い存在になっている気がして、私はため息をついて灰色の空を見上げた。


『…今日もきっと、会えないんだろうな』
携帯をポケットにしまいこんで、ぽつり、呟いてみる。


しかし、私の言葉は誰にも届かず、ただ曇り空へ溶けていっただけだった。
そして、次の瞬間──ざあっとひときわ強い風が吹いた。

木々が軋んで、花が騒いだ音を聞いた気がした。


誰かがいるような気がして振り返ると、そこにはさっきまでいなかったはずの姿があった。


『亮太くん……』

「お疲れ、詩乃ちゃん。今は休憩?」

『うん、そうだよ。亮太くんも、お疲れ様』


にっこりと笑う亮太くんに、私も微笑んでみせた。
亮太くんのその笑顔が急に意地悪な笑みに変わったのに気付いた時には、彼は私の隣まで歩み寄ってきていた。


「…ねえ、それよりも…どう、最近一磨とは順調?」

『え……っ』

彼が発した、一磨、という名前を聞いただけで思わず心臓が跳ねた。




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