Love letter



嫌いな数学の授業は、本当につまんないと思う。
長ったらしい数式は、意味不明な暗号みたいに思える。
…だけど、今は頑張れる気がする。
だって、斜め前の席にあの人が座ってるから。


私の好きな人、獄寺隼人はカッコ良くて勉強も運動も出来る。
テストなんていつも100点。
女嫌いらしいけど、武と並んで女子にモテる。でも女子には一切興味なし。私ももっと可愛らしく振る舞いたいのに、獄寺を見るとドキドキしちゃって、口から出るのはそっけない言葉。
10代目命の忠犬キャラな獄寺とは、会えば口喧嘩が当たり前になってる。
ああ可愛くないよ私、京子ちゃんみたいになれたらいいのにって何度思ったことか。
…でも、反応してくれるのが嬉しくて、つい悪口みたいなことを言っちゃうのかもしれない。


あー、それにしても
…獄寺は後ろ姿を見てもかっこいい。
素直じゃないから、私は他の子みたいに可愛く振る舞えれないけど
見てるだけなら…いいよね?

なんて心の中でひとり呟くと、嫌いな数学もいつもよりやる気が出そう。
…そんな気持ちは、先生の一言によって払拭された。


「前回の小テストを返すぞ…前に取りに来いー」


教師の言葉に、クラスのみんなはザワつく。
楽しみそうだったり、焦ってたり。
ツナはどうしよう〜って焦ってる。
武は机に伏せて熟睡中。
獄寺はけっ、といった感じ。
…もう、ホント態度悪いんだから。


私はといえば、もう開き直りに近い状態。
全然勉強してなかったし、半ば諦めモード。
獄寺はテストを先生から奪うとドカッと席についた。
ツナはいつものように嘆いて、順番が来て友達に起こされたらしい武は結果を見てぽりぽりと頭をかいていた。


「大谷ー」
教師から名前を呼ばれ、ゆっくりと立ち上がる。
『はい…』
「お前はやればできるはずだ、もっと勉強しろ」
教師は点数欄にちらりと目線をやると、テスト用紙を私に寄越した。
『…はい』

席について、テストを開く。
…点数は、43点。
もちろん、小テストといえど100点分ある。つまり、半分以下だ。


『はぁあ〜…』
ため息ついても点数は変わらないし、勉強してない自分が悪いんだけど。
こうも悪いとまたやる気が起きなくなる。
きっと悪循環ってやつなんだろうけどさ。
うとうと、うとうと、穏やかな眠りに負けちゃいそう。


…残りの授業は、あと10分。
起きてなきゃ、とは思ってほっぺをつねってみたり首をぶんぶん横に振ってみるけど、効果はゼロで。
先生の話し声もしだいに遠くなり、頭が下がる。
意識が遠のいて眠りに落ちる、その手前でパサッ、と紙のようなものが頭に当たってふっと目覚めさせられる。


『…へ?』
手元には、ぐしゃぐしゃに丸められた藁半紙。
ふと顔をあげると振り返ってこちらを見ている獄寺と目が合った。
口パクで「それ、見ろよ」と言って丸まった藁半紙を指さす。
よく分からなかったけれど私はそれを広げた。
カサカサ、と紙の擦れる音がする。


…よく口喧嘩をする私たち。
獄寺の事だから、「ばーか」とか書いてあるんだろうなとは思うけど、やっぱり緊張しちゃう。
…だって好き、なんだもん。

紙を広げるとそこに書いてあったのは“寝てんじゃねーよ”って言葉。
(なっ……いつも自分だって寝てるくせに…!)

…それかG文字作成か。
獄寺はぶすくれた私を見てフッ、と不敵な笑みを浮かべる。


『……!』
その笑みにドキッとしながらも、プリントを出して、オレンジのペンで“いつも寝てる誰かさんに言われたくないですー”と書いて獄寺に向かって投げた。

するとすぐに藁半紙が来た。
“オレは勉強しなくていんだよ”と書かれていた。
(くっそ、ムカつく……!)
でも自分がニヤけてるのが分かってる。
こういうやり取りが、たまらなく楽しくて…嬉しい。


“何点だった?”
先生が黒板に書いているときを見計らって獄寺に投げた。
…どうせ100点だろうけどさ。


するとすぐにさっきの小テストがぐしゃぐしゃになって飛んできた。
丸まった紙を広げると、点数欄には100という数字が踊っている。
3桁。
まず私とは桁が違う。やっぱりか…。とことん完璧なんだから。
その裏には“お前は何点だったんだよ?”と書いてあった。

私は机の中にしまったファイルからさっきの小テストを取り出し、裏返して“数学は苦手なんですー”と、言い訳を書いて投げた。
私の返事を見た獄寺が呆れたように笑ったから、ドキドキしちゃった。
…悔しいけど、やっぱり好き。


大きな気持ちを紛らわせるように掛け時計を見ると、授業時間はあと2分。
あれだけ嫌いで長く感じた数学の時間も、気付けば残りわずか。


―キーンコーンカーンコーン―
チャイムと同時に先生が「これで今日の授業を終わります」と言って、号令がかかった。
頭を下げ、先生が下を向いた瞬間に獄寺に思いっきり紙をぶつけた。


“私が獄寺の事、好きって言ったらどうする?”

好きだという気持ちがいっぱいいっぱいになって、ピンクのペンで書いたその言葉。
嘘じゃないけど、素直に言えない私なりの精一杯のラブレター。




(あなたに届いて欲しくて思いっきり投げた)

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