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高専で体を休めて、夕方ごろ斎藤が迎えに来た。
斎藤の運転する車に乗り、いつものように話を、と思ったがどうにも斎藤の雰囲気が暗い。
何か嫌なことでもあったのかも知れない、こういう時は一人にさせてあげるべきだと思い、帰宅してそそくさと自室に入ろうとした。

ぐっ、と後ろから斎藤に抱き寄せられる。
私より30センチ前後高い斎藤の顔が、私の肩に置かれている。

何か声をかけるべきなのかな。でも斎藤が何に悩んでいるのか分からない。
いつもお世話になってる斎藤に対して、自分にできることを探す。
私のお腹に回っていた斎藤の腕を少しどかすようにする。
「あっ、なまえちゃん、ごめん」
慌てて離れた斎藤の体を今度は私が正面から抱き寄せる。ぴしりと斎藤の体が硬直したのが分かった。そうなるなら最初から抱き寄せるなよ、と思いつつ、ゆっくりと背中をさすってあげる。
硬直が徐々に溶け、斎藤の腕が私の背中に回る。

「ごめんね」

苦しそうに吐き出されたその言葉は、何に対してだろうか。心当たりなんか一つもなくて困惑してると、さらに強く抱きしめられる。

「僕のせいで、危険な目に合わせてごめん」

身を屈めた斎藤の声が耳元で聞こえた。そこまで言われてやっと何に悩んでいたのか分かる。今回の任務を持って来たのはたしかに斎藤だけど、家に従っただけの彼を責める気は毛頭ない。それに呪術師という仕事をしている以上、いつ死ぬか分からないのだ。そんな、一々気に病んでいたら潰れてしまう。
思ったことをそのまま言っていいのか分からなくて、片手を斎藤の頭に乗せてくしゃりと撫でる。黒くてサラサラな斎藤の髪の毛は意外と指通りが良かった。

どれくらい、こうしていただろうか。
何分か何十分か分からない、けど、しばらく経って落ち着いた斎藤から
「すみません…もう大丈夫です…」
って声が聞こえたから手を離す。離れた体温の持ち主は手で顔を覆っていた。指の隙間から赤い顔が見える。あまりにも珍しい斎藤の様子に思わず笑ってしまうと、さらに顔が赤くなっていた。

「夕食!準備しますから!」

そう言ってキッチンに消えていくのを見届けるまで笑いが止まらなかった。

明日は月曜、微妙にある課題をこなさなければならない。そう思って自室に戻り課題ノートを開く。数学Aがプリント一枚と、漢字か。面倒だけど、やらないで明日先生に何か言われる方が面倒だ。ため息を一つこぼし、課題に向き合う。

携帯がなった。画面には当主様の名前。何かあったのだろうか。
「なまえ、聞きたい事があるんだが…」
電話に出た先には珍しく口籠っている当主様。

「ウチの分家の一つが皆殺しにされたらしい、何か知らないか?」
「知らないです」
「…そうか、まぁお前も気をつけろよ」

それだけで終わった電話。私や本家の人が狙われるのはよくある事だけど、分家を皆殺しなんて珍しいこともあるもんだ。加茂とは関係なく、単純に恨みを買ったのかも知れない。

扉の向こう、リビングからお兄さんと斎藤の声が聞こえる。お兄さんが帰ってきたらしい。
その後少しして、斎藤から夕食に呼ばれてリビングに向かう。ちらりと空いていた脱衣所からは血のついた黒い服が見えた。
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