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いつもと同じ午後。
お昼ご飯食べた後って眠くなるから、授業やめてお昼寝の時間にしたほうがいい。
なんて思いながらも授業を受けて、やっと終わった解放感から友達とカラオケ行く?なんて話をした。
いいね!って返事をしようとしたのに、携帯が突然震え出した。着信名を見て、眉を顰める。
カラオケ行く流れだったけど、友達にはバイトあったわ!って断ることになってしまった。

いつもと同じだと思っていたのに、今日はアルバイトの日だったみたい。
ホントは学校じゃ携帯禁止だから着信拒否を押して、大人しく家に帰った。

「ただいま」
「おかえり」

一人暮らしなのに何故かある返事。この声は斎藤か。戸締りきちんとしたり、鍵を変えたりしたけどダメ。もう諦めた。

「あっそれ!私のケーキ!」
「なまえちゃん帰ってくるの遅いんだもん」

笑顔で答える従者かっこわらいに反吐が出る。非術師の斎藤は家の命令でたまに家までやってくる。クソジジイ共が来ないだけまだマシだけど、斎藤は斎藤で面倒だから嫌い。家だと年上のジジイ相手にヘコヘコしないといけないから、年下で適当にしても大丈夫な私の仲介役に志願した、って本人が言ってた。

「返して!ケーキ!返して!」
「ハイハイ、これ今回の手土産ね」

そう言って斎藤が出してきたのは実家近くの好きだったケーキ屋さん。実家に戻らなくなってから、あのケーキ屋さんには行けなかったので中々気がきく手土産である。まぁ元々冷蔵庫に入れてたケーキ食べてるのでプラマイマイナスだが。

「折角だからおじさんが紅茶も淹れてあげるよ」

これ見よがしに最後の一口を食べた斎藤が、ゆっくりと腰を上げる。斎藤が定期的に買ってくる物の中から、紅茶を取り出して淹れる準備にかかる。ちなみにコーヒーメーカーとかもあるけど、私は飲まないので斎藤達専用になってる。なんなん?
紅茶ってちゃんと淹れるの面倒。ポットとカップ温めて、お湯沸かして、蒸らして、って手順が多い。自分で作るときは殆どティーパックだけど、斎藤はきちんと茶葉で淹れてくれる。マイナスだった私の機嫌はプラスになったのだった。

「ハイ、どーぞ」
「ありがとう」
「いえいえ、おじさんにとって此処が一番居心地いいから、その場所代」
紅茶とケーキ。なんて贅沢な時間なのか。
しかし大人の男性が現役高校生の家に来てるの、だいぶ怪しいと思う。場所代、手土産と称して色々買ってきてくれる代わりに、そこそこな頻度で家に上がり込んでるけど、実家が嫌なら逃げればいいのに。非術師の事はわからないけど、クソジジイ共にこき使われてバカにされてる事は分かる。

「美味しいかい?」
「ん」
「良かった、なまえちゃんは楽しく過ごしてほしいからね」
「何?今日は珍しくセンチじゃん」
「ハハ、そういう日もあるさ」
「不味くなるからやめて」
「はぁい」

それから斎藤は、私がケーキを食べ終え紅茶を飲み終え、食器を片付けてから書類片手に戻ってきた。アルバイト、もとい呪術任務の話だ。まぁお金がもらえるからアルバイトのようなものだけど。
食事中に話されると嫌になる、と一度伝えてたからいつもこのルーティンだ。手土産はきっと私のご機嫌取りの意味もあるんだろう。

「嫌だ」
斎藤からのバイトの話を聞いて、真っ先に浮かんだ言葉を言う。星漿体を守り見届ける仕事、なんてたまにしか働かない私には荷が重い。
「五条悟がいるんでしょ?私なんていらないじゃない」
「それはホラ、保険の保険。万一、億が一の為のなまえちゃんってわけ」
「あの五条悟でしょ?保険なんていらない。それに私じゃなくてもいい。クソジジイ共は?」
「皆さん任務で忙しいんです。あの特級呪術師に対応可能な動ける特級呪術師はなまえちゃんだけなの。」
「は?無理無理無理」
「できるできる。なまえちゃん、強いのは勿論、適応力も高いし」

私が!それなりに!強いのは!認める!でもあの最強と名高い五条悟に勝てるなんて思ってないし、下手に技に巻き込まれて死ぬ可能性だってある。アルバイトとしてたま〜に祓ったりはしてるけど、所詮それだけだ。

「ダイジョーブだって。てか断るの?星漿体だよ?なまえちゃん任務不参加ですー、五条悟やられましたー、星漿体死んで天元様敵に回りましたー!ってなったらどうするの?なまえちゃんのせいだよ?」
「え、それ私のせいなの?五条悟のせいじゃない?」
「五条悟にも責任はいくけど、話を断ったなまえちゃんにも責任はいくと思うよー。今バックアップのないなまえちゃんなんかペシャンコにされちゃうよ」
「ペシャンコって」
「それに」

ニッコリ、なんて効果音がつきそうな笑い方。でも目が笑ってない。
斎藤がこの笑い方をするときは、碌なことがないって今までの経験から学んだ為少し身構えてしまう。

「天元様のご指名なので絶対に断れないで〜す!」
「先に言え!」
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