はじめまして、少年探偵 2
「うわ!!」「っ!?」
大型犬に吠えたてられていたのはコナンだったらしい。
さすがに高校生の姿であれば少々驚く程度で済んだろうが、今や自分と変わらない大きさの獣が複数。青ざめながら逃げてきたコナンは勢いよく俺の背にしがみついてきた。唐突な衝撃によろめく。今も唸り続ける犬達から、俺を盾に逃げるコナンに苦笑が漏れた。このまま下手に暴れられても困る、と足を捕まえておんぶの体勢に変えた。
「おいおい大丈夫かよ」
「ご、ごめんなさい……」
「あんまりうろちょろすんなよ。すみませんなご主人」
「いえ……。気を付けるんだよ、坊や。うちの番犬は優秀でね、知らない人にはすぐ反応して吠えるんだ」
娘さんに年の近い子供相手だからか、谷氏は相変わらず心配そうな顔をしているが、対応には柔らかさが戻った。
酷なことだが、心配が過ぎれば状況が悪化することもある。少々張った気を緩めてほしいと思っていたところだった。そんな中、意外にもコナンのうろちょろ癖が功を奏したようだ。
――しかも、もう一つの効果を引き連れて。
「『知らない人間にはすぐ反応する』と仰いましたね」
「え? あ、ああ、その通りです」
「――麻生さん」
「はっ、はい!?」
「もう一度、あなたの見たものを教えていただけますか」
声をかければ、明らかに焦りを見せる麻生氏。俺は念を押すように、もう一度お願いしますと告げる。何度か小さく唸り、視線を泳がせた老執事は、絞り出すように再び語った。
「で、ですから、庭の隅から突然現れた黒ずくめの男が、遊んでいたお嬢様にナイフを突き付けて……、あの、木から、……あ、」
「あの木から、逃げたんですね?」
「いえ、いや、その、」
この場にいる人間が、一斉に彼へ不審げな目を向ける。この世の終わりのような顔で弁解を試みようとする麻生氏に次を促す。
「違う質問をしましょう」
「う、あ、」
「貴方は犯人を見た。その犯人は、この屋敷に訪れたことのある人間ですか?
――この番犬に吠えられない程、顔馴染みの」
麻生氏は、沈黙を選んだ。