■ ■ ■
「おさげの女ーーーーーー!!」
「いい加減にしろーーーーーー!!!!」
遠くからでもよく分かる、日常になりつつある攻防の声。
シャッターチャンスを逃さないよう、なびきはしまいかけたカメラをいつでも構えられるようにして立ち上がった。
着々となびきのいる中庭へ声が近付いてくる。
真っ先に現れたのはらんまだった。九能との距離が少し開いているらしい。なびきに気付くと必死の形相で助けを求め出した。
「なびき! あの変態なんとかしてくれ!」
「いくら出す?」
「おっお前……! こんの金の亡者……っ!」
「何事もリターンがないとね」
飄々とした調子のなびきに食って掛かろうにも、背後から聞こえてくる九能の声に危機感がブレーキをかける。
ぎりぎりと歯を食いしばって一瞬だけ悩んだらんまは
「今日の晩メシ! とんかつ半分やる!」
「うーん……」
あからさまにノリ気でないなびき。
しかし、何か思いついたようで、途端に表情が明るくなる。
「それなら、『こう』かな」
明らかに、ロクなことを考えてない!
九能相手と変わらない不穏な空気を感じながらも、「やっぱナシで」の一言は口にすることは出来なかった。
「おお、おさげの女!! こんなところにいたのか!!」
ぱあっと音でも聞こえそうなくらい満面の笑みで駆け寄る九能。反して、らんまはなびきを盾に後ろへと下がっていく。
「やあやあ九能ちゃん」
「む、天道なびき。何の用だ」
「ちょっとね」
「手短に頼む。僕はこれからおさげの女とデートで忙しいからな!」
「誰がするかあ!」
はっはっはと高らかに笑う九能に悲鳴じみた声でらんまは否定する。
そんな相変わらずの風景に、なびきは『とんかつ半分』程度のスパイスを加えることにした。
「なあ九能。この子なんだけど」
なびきはらんまの背後へ周り――抱き込むように引き寄せた。
2人から漏れる驚きの声もなんのその。不敵に笑い、なびきは告げる。
「この子、『僕の許嫁』だから。あんまりちょっかい出さないでくれる?」
瞬間。
九能とらんまだけでなく、窓から覗き見ていた学生達の驚愕の声が、学校中に響いた。
お兄ちゃんに許嫁?