■ ■ ■

 朝のホームルーム。担任による点呼が始まる中、俺は斜め前の空席に目を向けた。

「九能……ん、九能はどうした」
「さっきプールに叩き込まれたんで、着替えてるんじゃないですかね」
「またか。天道、お前も止めんか」
「どっちも言ったって止まりませんて。猪突猛進の単純馬鹿なんだから」

 からからと笑っていると、勢いよくドアが開かれる。
 もちろん今話題の友人、九能帯刀だ。

「誰が猪突猛進の単純馬鹿だ!」
「煩いぞ九能、それと遅刻だ」
「ぐ、っすみません……」

 怒れる反論に俺は肩を竦めるも、九能も先生からの一喝を食らいそそくさと席へ着いた。
 その後も淡々と点呼は続き、連絡事項をひとつふたつ告げると先生はホームルームを切り上げた。
 起立、礼。
 着席せずに、九能に話しかけることにした。

「お疲れ様」
「ふん。毎朝のスキンシップは大切だからな、疲れなどせん」
「あれをスキンシップと言えちゃう感性は割と嫌いじゃないよ」
「お前に好かれても嬉しくな――いや、天道あかねと僕が結婚した場合、君は義兄になるわけだ。天道なびき、別に君のことは好きじゃないが、そのまま僕のことを好いていてくれて構わんぞ」
「ポジティブすぎてホンット気持ち悪いな。撤回するよ」
「何とでも言え。次、移動だぞ」
「あれ、そうだっけ?」
「図書室だ」
「相変わらずそういうところだけは真っ当なんだから」

 なんてぼやきながら教科書、ノート、ペンケースを手に、九能と並んで教室を出る。
 いつものようにどうでもいいような雑談を交わしながら、図書館を目指した。

「……相変わらず変な二人よね」
「全く、仲がいいんだか悪いんだか」

 そんな風にクラスメイトに言われているなんてことは知らないで。



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