*プラネタリウム
−ねぇ。
・・・何だい?
−あの星の名前は何?
あれはベガだよ。織姫星さ。
−へぇ。すごく綺麗だね。
夏の代表的な星だからね。アルタイルとデネブと合わせて夏の大三角って呼ばれてるし。
−ふぅん・・・。詳しいね。
そんなことはないよ。−ねぇ、僕からもひとつ聞きたいんだけど。
−何?
君はずっと此処にいるのに、どうしてひとつも星の名前を知らないんだい?
−・・・うーん。
興味がないのかい?まさか覚えられないって訳じゃないだろう?
−興味がない訳じゃないよ。・・・そうだね。沢山見すぎて逆に記憶に残らない、って感じかな。
どういうことだい?
−毎日数え切れない数の星を見て・・・見過ぎて、頭がショートしたような、そんな感じ。
勿論、君から星の名前を聞いた直後は覚えてるよ。でも、次の瞬間にはもう別の星に興味が移ってる。そしてまた君に名前を聞く。それの繰り返しだよ。
ふぅん・・・そういうものなのかな。
−目に映るものなんてさ、すぐに消えちゃうんだよ。一瞬だけ自分の頭の中を通り過ぎて・・・それだけ。そんなものだよ。
ああ、そうだ、君にずっと聞こうと思ってたことがあるんだけど。
何だい?
−君は、いつまで此処で星を見ているの?
・・・そうだね、『君』が此処に来るまで・・・かな。
−いつ来るのか分からないし、もう来ないかもしれないって君が前言ってたけど・・・。
それでも待つの?此処でずっと?
−ああ、そうだよ。来なくてもいいんだよ。待っていることが僕の存在意義だと思うから。
−・・・何か矛盾してる気がするよ。
そうかもね。でも、それは君も同じじゃないか。君だって、きっと来ないって言ってるのに、ずっと此処で待ってる。
−はは。そうだったね、ごめん。・・・じゃあ、目的は同じってことだね。
そうだね。でも、待ってるだけじゃいけないってこともあると思わないかい?
−・・・そう、かな。
ああ。今はずっと待ってるけど、いつかこっちから行かなきゃいけない日が来ると思うんだ。
−そっか、そうだね。確かに、そうかもしれない。
そうだろう?だから、ゆっくり準備を始めよう。
−やることが増えちゃったね。まあ、いつになるか分からないけど・・・。
いつになってもいいんだよ。星を見ながら、準備しよう。まだ君に教えてない星の名前が沢山あるしね。
−ありがとう。頼むよ。
いいよ。―早く、この言葉を使えるといいね。
『君に逢いにゆこう』
end.
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