僕はいつも意識してました


※モブ年齢操作あり




「え、名無し先輩?」




名無しがサークルの飲み会に行くと
「新入生が1人遅れて合流するから」
と、4年の先輩がメンバーに言った。

だが、その遅れてやってきた"新入生"が
予想外の人物で名無しは固まった。

『嘘、モブくん?』

サークルの先輩に連れらて、
騒がしい居酒屋に姿を現したのは
名無しと同じ高校に通っていた影山茂夫だった。
名無しが高校三年生の時、
モブは高校一年生だったので二つ下の後輩という事になる。

『モブくんだー!久しぶりっ!
卒業式以来だから二年ぶりくらい?』

「はい、名無し先輩、
お久しぶりですっ!」

ふわりと笑ったモブの笑顔が
高校の時に見た笑顔より
少し大人っぽくなっている事に
名無しは気付いた。

『(モブくんも、もうハタチか…
そういえば背も伸びてる…)』

「なんだ、名無しと影山、
知り合いだったのかよ!」

「じゃ、影山くんの席はここでー!」

「ちょ、うわっ…」

サークルの仲間に押されながら
モブは名無しの隣の席にドサリと、
無理矢理座らされた。

「えっと、名無し先輩、
お隣、お邪魔します。」

頬をポリポリと掻きながら
顔を赤くして照れた様な仕草をする
モブの姿が、高校生の頃のモブと重なり
名無しは懐かしい気持ちになった。

『いやー、びっくりしたよ。
こっち来てから知り合いに会ったの
久しぶりだからさ。』

「はい、僕もまさか名無し先輩と
大学が一緒なんて、思いもしませんでした。」

『だよね〜。ん?という事は、
モブくんも一人暮らしなんだ?』

「はい。ここから近くにある
ベリーバリューっていうスーパーの
近くのアパートに…」

『えー!私もその辺だよ!!』

「えっ、そうなんですか?」

その後も二人の会話は盛り上がり、
やがてモブのグラスが空になっている事に名無しは気付いた。

『モブくん、何か飲む?』

名無しがメニューを広げると
モブがそれを覗き込む様に
名無しの方へ寄り、
二人の肩が触れ合った。

『!!』

「えーと、名無し先輩は
どれが好きなんですか?」

耳元で聞こえた
前よりも低いモブの声に名無しは
身体を強ばらせた。

「先輩?」

『えっ?ああ、私はね…えっと…』

その時、ふいにモブの手が
メニューを握る名無しの手を掴むと、
前の席に座る仲間達から
二人の姿を遮る様にメニューを引き上げた。

『!?』

「名無し先輩、」

至近距離で真剣な表情を浮かべながら
名無しを見つめるモブが静かに囁いた。

「もし、僕が
先輩と同じ大学に入ったのも
同じサークルに入ったのも、全部、
名無し先輩に会いたかったから、
って言ったら…どうします?」

『は………。』

メニュー表を持つ、
名無しの手に重なったモブの手に
ぎゅっと力が入った。

モブの手が自分の手より大きく、
ゴツゴツしていている事に気付いた名無しは急に目の前にいるモブを
「男」として意識してしまった。

『ちょ、私、お手洗いっ…』

名無しは赤くなった自分の顔を
隠す様に勢い良く立ち上がり、
トイレへ向かった。





早いリズムを刻んでいた鼓動が
やっと落ち着いてきた名無しは、
トイレを出た。

トイレから飲みの席へ繋がる通路を
歩いていると、前から
モブがコチラに歩いてくるのが見え、
名無しは、思わず目線をわざとらしく逸らした。

すると、すれ違いざまに
モブの手が名無しの腕を掴み、
強引に名無しを振り向かせた。

『モブ、く、ん…?』

「名無し先輩、ちょっとは
僕の事、意識してくれましたか?」

『へ…?』

「僕はいつも意識してましたよ、
先輩の事。」

「高校の頃からずっと、ね。」と
顔を覗き込んできたモブに
名無しは赤い顔を更に赤く染めた。

「名無し先輩、
この後、二人で抜けませんか?」

ぎゅっと名無しの腕を掴み、
怪しく微笑んだモブに、
高校生の頃の控え目な"好青年"の面影は
もう無かった。




END




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