スイートルームと勝負下着
自分の、崩れた化粧と
乱れた髪に気付いたマリンは
ひとまずバスルームに向かった。


バスルームは
驚く程広く、浴槽には薔薇の花が
浮かび、甘い香りを漂わせていた。

ここがスイートルームであったことを
思い出したマリンだが
先程の我愛羅の顔を思い出すと
とてもはしゃぐ気分にはなれなかった。

浴槽に浸かり、
薔薇のいい香りを肺いっぱいに吸い込み、
ふぅ、と息を吐くと、
だんだんと冷静になることができた。

『…私の危機感が無かったのも
原因だよね。』

マリンは苦しそうな表情で部屋を
出ていった我愛羅の顔を思い浮かべた。

そして、冷たい瞳を向けながらも
自分の身体をなぞる我愛羅の手が
酷く優しい手つきだった事を思い出した。

『…噛まれたのは痛くて嫌だったけど。』

マリンは広い浴室に響く独り言に
急に寂しさを感じ、
ぶくぶくと顔を浴槽に沈めた。

やがて息が苦しくなり
マリンはバシャリと湯船から顔を出すと、
『よし!』と気合いを入れた。

『仲直りしよう。』

マリンが浴槽から出ると
着替えを持ってないことに気付いた。

バスローブは用意されているが
マリンは手をかざし、
目の前にパジャマを出そうとした。

その時、ふと、
イノと買った下着の存在を思い出した。

『あ…』

気付くと、かざした手の前には
パステルピンクの生地に
所々黒いリボンやレースがあしらわれた
上下セットの下着があった。

イノと買った下着で
イノ曰く、エロ可愛い下着だ。

『ま、間違えた…
考え事しちゃったから、』

マリンは焦りながらも
女子会の時に、
言われた言葉を思い出した。

「マリンの方からも
アピールしなきゃ我愛羅くん、
他の女の子に取られちゃうかもよ?」

「女の子も受け身過ぎるのは駄目よ。」


ゴクリと喉をならし、
マリンは目の前にある
真新しい下着に手を伸ばした。

『受け身過ぎは駄目…アピール…』

呪文の様に唱えながら
下着を身に付けたマリンは
その上にバスローブを着て浴室を後にした。





マリンが
寝室へ行くと広いベッドの端の方で
横になっている我愛羅が目に入った。

『!!』

マリンは意を決して我愛羅に近付いた。
しかし、こちらに背中を向けている我愛羅は動かない。

『我愛羅…?寝てるの?』

呼びかけても
動きも返事もない我愛羅が
寝ていると悟ったマリンは、
残念な様な、はたまた、ホッとしたような
複雑な気持ちになりながら
ベッドにそっと腰掛けた。

マリンは我愛羅が寝ているのをいい事に
一人で喋り出した。

『我愛羅、
私のせいで今日は嫌な思いしたよね、
…ごめん。』

「………。」

『ハヤトさんはね、前からの知り合いで、
上忍仲間として尊敬してた人なんだ。
だから、まさかあんな事を言われるなんて
予想もしてなかったから、すごく
びっくりしたし、なんて言えばいいのか
分からなくて、困ってたの…。
だから我愛羅が来てくれた時は正直、
ほっとした。…来てくれて、ありがとう。』

「………。」

『あと、私が好きなのは我愛羅だけだよ…。
我愛羅に触られて嫌なんて思った事、
今まで一度もないから、』

「………。」

『あ、肩、噛まれた時は
びっくりして泣いちゃったけど
私、全然怒ってないよ。
それより、苦しそうな顔して
出ていった我愛羅が心配だった。』

「………。」

『もう、我愛羅にあんな顔して欲しくない。
仲直りして、またいつもみたいに
一緒にいっぱい笑いたい。
このまま里に帰るの嫌だな…。』


気付くと、マリンは
ポロポロと涙を流しながら話していた。

寝ているとしても、
我愛羅のすぐ横で涙を流す事に抵抗を感じた
マリンがベッドから
立ち上がろうとした瞬間だった。

突然、後ろから伸びてきた手が
パシリとマリンの腕を掴み、
そのまま後ろへ引っ張った。


『へっ…!?』


マリンの身体は
抵抗する間もなく、後ろへ倒れていった。






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