本当はもっと君が欲しい
それからマリンは、木の葉にいる兄に
少しの罪悪感を抱きながらも、
予約していた宿をキャンセルし、
我愛羅と共に、食事へ出かけた。

食事中も、
再び我愛羅の部屋に帰ってきてからも、
いつも通りの我愛羅の様子に
マリンも、先程の強烈な出来事は
頭の中で徐々に薄れていったのだった。





しかし、我愛羅に風呂を借りたマリンは
風呂の鏡に映った自分の首筋に、
くっきりと赤い印が、所謂キスマークが
ついている事に気が付き、
我愛羅の、熱を含みながらも
獲物を見つけた時の獣の様な眼差しと
生々しく首筋を這う舌の感覚を再び思い出し、
顔に熱が集まったのだった。

マリンは、無意識の内に
いつもより時間を掛けて、
身体を洗ってから風呂を出た。





風呂から出たであろうマリンの足音が
聞こえ、我愛羅は読んでいた書類から
顔を上げた。

「っ…。」

風呂上がりで濡れた髪に、
パーカーとショートパンツというラフな薄着で、頬がほんのり染まったマリンと、
我愛羅は目が合う。


普段は目にする事のない、
短パンから覗くマリンの
柔らかそうな脚を目にし、
我愛羅は固まってしまった。


『我愛羅、お風呂お先にいただいたよ。
ありがとう。』

「あ、ああ。」

こちらに近付いてくるマリンから
逃げる様に「俺も風呂に行ってくる。」と
我愛羅は風呂へ向かった。

マリンは首を傾げながらも
ソファに腰掛けて我愛羅を待った。






我愛羅が風呂から上がり部屋へ行くと
ソファでマリンがウトウトしている事に気が付いた。

「マリン、眠いならベッドで…」

『んん…』

今にも眠ってしまいそうなマリンを
我愛羅はそっと横抱きにして、
ベッドに向かった。

我愛羅は
予想よりも遥かに軽い彼女に驚きつつ、
ベッドにマリンを寝かせると
先程よりも意識がはっきりとした
マリンと至近距離で目が合った。

マリンは、
緊張と少しの期待感を抱きながら
我愛羅を見つめた。

何秒かお互いに見つめ合うと、
我愛羅はマリンに顔を近づけた。
マリンは次にくるであろう展開を予想し
頬を染めながら目を瞑った。

しかし我愛羅は、
マリンの頬に触れるだけのキスを落とすと
すぐに離れた。

「マリン、おやすみ。」

『(…あ、れ)…おやすみ。』

予想していた展開とは違い、
肩透かしをくらったような気分になった
マリンだが、自分だけ先走っていた事に気付き、慌てて我愛羅から目を逸らした。

『(なんで私、がっかりしてるの?)』

色んな感情に頭を悩ませながらも
頭を優しく撫でる我愛羅の暖かい手に
再び眠気が襲ってきたマリンは意識を手放した。






しばらくマリンの頭を撫でていた我愛羅は
マリンが静かに寝息を立てている事を
確認すると、ベッドから降りて、
リビングのソファへ腰を下ろし、
はぁ、と重苦しいため息をついた。

「(俺はマリンの気持ちを考えずに
何をやっているんだ、全く…。)」

キスした時のマリンの初々しい反応と
ソファに押し倒した時の
震える小さな手を我愛羅は思い出した。

「(大切にしてやらなきゃ駄目だろう。)」

少し離れた所にあるベッドで眠る
マリンの姿をチラリと見ると
「んん…」と寝返りをうっていた。

我愛羅は、キスをした時の
マリンの色っぽい吐息を思い出し、
顔を赤くしながら思わず頭を抱えた。

「(…だが、もっと、マリンが欲しい。
本当は…まだまだ足りないと言ったら
マリンはどんな顔をするのだろうか。)」


日に日に、自分の中で
どんどん膨らむ欲望を誤魔化す様に
我愛羅は書類の文字を必死に目で辿った。



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