恋なんてしていない





近くのカフェに入った二人は
カフェラテ片手に近況を語り合っていた。

『あ、そういえば、
一年前のお祭りの時にシカマルといい感じだったよね!
その後二人で抜け出してたし!
二人は付き合ってるの??』

「ブッ!!」

『ああ!!?テマリ!?大丈夫!?
ごめんね?いきなり(笑)
はい、おしぼりだよ。』

「あ、ああ、すまない。
バレてたのか…
まぁ、その、そんな感じだ、」

「付き合ってる…」と
ボソリと呟きながら
顔を真っ赤に染めたテマリに
マリンは年上という事を忘れ、可愛いな、と思った。

『やっぱり!
ふふ♪2人お似合いだなぁ!』

「私の話は、いいから、
マリンはどうなんだよ。」

さっきまでとは
打って変わってニヤニヤとした顔をするテマリ。

『え、私は、そんな、
今まで彼氏とかいたことないよ。』

テマリは驚いた。
同性から見ても容姿端麗で、性格も文句ないマリンだ。
今まで彼氏の1人や2人居たものだろうと
思っていたテマリは原因を勝手に考えてみた。
強いていえばそこらの男より
遥かに強いという所だろうか。

「気になる人とか、好きな人は?」

ニヤリとマリンを見ると
マリンはバッと、テマリから視線を逸らす。

『え、いや、その…』

いきなり挙動不審になったマリンに
テマリが畳み掛ける様に言葉を発した。

「…私が、姉だから言いづらいか?」

『っ!!!?』

な、な、なんで!と
顔を真っ赤にするマリンにテマリは声を出して笑った。

「…我愛羅だろ?」

観念したのか、
こくり、と赤い顔で頷くマリン。


「やっぱりな。そんな気はしてた。
私は応援してるよ、むしろ、
マリンが我愛羅をそんな風に思ってくれて、
私は嬉しい。」

『テマリ…うん、ありがとう。
私、昔から我愛羅くんの事が好きなんだ。
気付いたのは大きくなってからだけどね…』

えへへと照れるマリンを見つめる
テマリの顔はとても優しい。
二人はお互いに姉、妹がいたらこんな感じなのかな、と思った。


「…マリンと再会してから
我愛羅は表情豊かになった。
何よりよく笑う様になったんだ。
以前の我愛羅なら考えられないくらいにな。
それに私達が本当の"姉弟"になれたのも
マリンのお陰だと思っているよ。」

『ううん、そんな事ないよ。
テマリ達がちゃんとお互いに向き合った結果だよ。』

どこまでも
律儀で謙虚な姿勢を崩さないマリンに
テマリが、肩を竦めた。

「…マリン、これからも
我愛羅の事、
傍で支えてやってくれないか?
なんなら、恋人として、ってのはどうだ?」

ニヤニヤとテマリがからかう様に笑う。
しかし、マリンは口を一文字に結んだままだった。

『いや…それは出来ないよ。
私の気持ち、我愛羅くんには言えない。』

「…は?なんで。」

『だって、我愛羅くんは今日から
風影だもん。里を背負って立つ凄い人、
やっと叶った夢の邪魔をしたくないし、
私の勝手な好意だもん、
きっと我愛羅くんには迷惑になる。
もう、私なんかには手が届かない人だよ、
我愛羅くんは。』

遠くを見つめながら
どこか、悲しい様な、
寂しい様な笑顔を浮かべるマリン。

「(ああ、この子は我愛羅の好意に
気付いてないのか。)」

「マリン、我愛羅は…「テマリ!探したじゃん!」

テマリが口を開くと同時にカンクロウが
カフェの入り口から声をかけた。

「(こいつは…タイミングがいいんだか悪いんだか)」

チッと舌打ちをするテマリ。
そんなテマリの様子に気付かない
カンクロウはズカズカとテマリの元へ近寄っていった。

『カンクロウさん!』

「あ!マリンじゃん!!
久しぶりじゃんよ!
あ、まさか木の葉からの出席者って
マリンだったのか!?」

『はい!我愛羅くんの風影就任、
おめでとうございますっ!』

ぺこりとカンクロウに頭を下げるマリンに
苦笑いを浮かべるカンクロウ。

「それは、本人に言ってやれじゃん。

てか、マリン、前から思ってたけどよ、
そんな他人行儀にしなくて良くね?
タメ口でいいじゃん。そんな、気ぃ使うな。」

ポンポン、と
若干顔を赤くしながらマリンの頭を
撫でたカンクロウ。

『ありがとうございます…
うん、じゃあ、そうするね!』

ニコリと笑ったマリンを見て
カンクロウは更に頬を染めた。
その様子を見てテマリは
なんとも言えない気持ちになる。


「はぁ、カンクロウ、私を探してたんじゃなかったのか?どうした?」

「あ!すっかり忘れてたじゃん!!
てか、どうしたじゃねぇよ!
就任式始まるじゃん!」

ああ、もうそんな時間かと、
テマリはマリンとの話が
予想以上に盛り上がっていた事に今更気付いた。

「すまないな。マリン、
またゆっくり話そう。会場まで案内する。」

『うん!お願いします』






【マリンside】

式は着々と進んだ。
風影として正装した我愛羅は
1年前よりひと回りもふた回りも大きく見えた。

かっこいいな…


『我愛羅くん…』


『(ずっと大好きだよ。)』


口には出さなかった
我愛羅くんへの思いを
私は心の中で何度も呟いた。

まるで、簡単に消えもしない
この感情が底尽きるまで体内で消化させる様に。







我愛羅くんの演説も終わり、
式が無事終了した。

会場を見渡すと、昔彼に向けていた冷たい視線はほとんどない。

「信頼」「期待」「尊敬」

皆、
そんな雰囲気を持った目をしていた。

私はせめてもの餞別として
壇上に向けて手をかざし、
色とりどりの花びらを降らせた。

会場からは歓喜の声が溢れ、
我愛羅くんは目を丸くさせ驚いていた。

『おめでとう、我愛羅くん』

呟くと、あの綺麗な瞳と
目が合った気がした。



こうやって遠くから見ているだけでも
幸せだから。

マリンは無理矢理、自己解決させると
会場を後にした。




 

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