また会う日まで




【我愛羅side】



やっぱり眠れない。

僕はいつもの様に
屋根の上に登って月を眺めながら、
今日会った少女に思いを馳せていた。

マリンはどこに住んでるんだろう。
何歳なんだろう?見た目は僕と同じくらいかな?

「(あ…子守唄…)」

「マリン…子守唄歌って欲しいよ…」

ギュッとクマのぬいぐるみを抱きしめた時だった。


『あ、いたいた我愛羅くん〜』

!!?

ガシリ!と屋根を掴む小さな手が見え、
次の瞬間、のそのそと小さな人影が姿を表した。

「え、マリン!!?」

『子守唄歌ってあげる約束したでしょ?』

ニコッと、マリンは
昼間に見た可愛い笑顔をしていた。

「な、なんで、僕が居る所分かったの?」

『我愛羅くんの力の流れ?を
こっちから感じて、
で、歩いてたら屋根に居るの見えたの!』

"めーたんてー"みたいでしょ?
と、誇らしげに言ったマリン。

僕はクスリと笑って
うん。と、マリンに笑顔を向けた。

しばらく立ち尽くしていたマリンは
するりと、僕の隣に座って、
心配そうな顔を向けて来た。

『眠れない??』

「…うん…怖い」

『私がいるから大丈夫。
私が我愛羅くんを守ってあげるよ。』

トントンと小さな手で僕の背中を叩くマリン。
一定のリズムで刻まれるそれは、
とても心地よくて、どこか懐かしいような気がした。

『ねーんねーん、ころりーよ、
おころーりよー、我愛羅ちゃんは
いい子ちゃんだ、ねんねしな〜♪』

「ふふっ…なにそれ。」

ええ!子守唄だよ〜と
頬を膨らませるマリン。
でも、その後
目が合って二人して笑った。

なんて心地良い空間なんだろう。
うっとりと我愛羅は目を細めた。
しかし、それを破るかのようにマリンが口を開いた。

『…我愛羅くん、あのね、私、さっき、
おじいちゃんに言われたんだけど
明日、砂の里を出るの。
木の葉に帰ってから、また色んな里に行くんだって。
他にもたくさん困ってる人がいるから助けに行くの。
だからバイバイしなきゃいけない。』

「マリン、木の葉の子だったの?
…そんな…嫌だ、行かないでよ…」

『ごめんね、我愛羅くん、
私も我愛羅くんと離れるの嫌だよ。
でもまた会える気がするの。絶対に。
だって我愛羅くんは私の大切なお友達だから』

「僕が?お友達?いいの?」

『当たり前だよ!
我愛羅くんはね、私の初めてのお友達なんだ。
むしろ、私とお友達になってくれてありがとう。』

ぎゅっと手を握ってくるマリン。
小さな手は
僕の手より暖かくて、僕の手もじんわりと温まる。

「僕も、マリンが初めてのお友達。
ずっとずっと大切なお友達…
マリン…ありがとう。」

ポロポロと僕の服に水滴が落ちた。
あれ?なんだろう。
気が付くと僕の目からは涙が溢れていた。

『…我愛羅くん?どこか痛い?悲しいの?』

「ううん、違う…嬉しいのに、涙がでるんだ。」

『そっか。良かった!!それはきっと
嬉し涙だよ!』

「嬉し涙?」

『うん。嬉しい時に出る涙!
ママが言ってた!』

嬉し涙…そんな物があるのか。

『あ、我愛羅くんにいいものあげるね。
離れていても、ずっと友達の印。』

マリンは首元を漁ると、
淡いエメラルドグリーンの
小さな宝石のような物が付いたネックレスを
外し、我愛羅の首元につけた。

「これ、なに?」

『これはね、
どんなものからも守ってくれるお守りだよ。
きっと私の代わりに我愛羅くんを守ってくれる。
…ママとパパから貰ったの。
今はもう居ないけど』

「居ない?」

『うん、多分もう死んじゃった…
なんとなく分かるんだ。
凄く寂しいけど、今は神龍も、
おじいちゃんも、お兄ちゃんもいるし、
何より友達の我愛羅くんがいるから
楽しいよ!!
だから本当は我愛羅くんと離れたくないな。
…不思議だね今日会ったばっかりなのに!』

「そっか…!!
僕も、マリンといると寂しくないし、
離れたくないよ…


…うん、僕、決めた。


強い忍になって今度は僕がマリンを守る。
忍になったら、僕がマリンに会いに行く!」

『(忍ってなんだろう…でも、嬉しいな!!)
うん!待ってる!』

「あと、マリン、お守りありがとう
ずっと、大切にするね。」

『うん!』

それから僕達は他愛ない話を
たくさんした。
実は同い年ってこととか、誕生日はいつとか、
好きな食べ物とか、マリンの能力の話、僕の砂の盾の話、
実は昼間にマリンが花を生き返らせたのを見ていて、
びっくりしたこと…

人とこんなに話したのは初めてだった。
優しい鈴の音みたいなマリンの笑い声が
僕の気持ちをどんどんと柔らかいものにしてくれた。
それに、マリンの隣にいると、なんだか凄く心地よくて、
僕の中で一尾が完全に眠っている事に気付いた。
そして僕も、コクコクと頭を揺らしながら、
いつの間にか意識を手放しそうになっていた。

『我愛羅くん、眠い?』

「ううん…眠く、ないよ…まだ、マリンと…話す…か、ら」

『ふふ、楽しかったね我愛羅くん。
また会おうね。離れていてもずっとお友達だよ。
…おやすみ。』

「…マリン、ずっと……すぅ、」

『…良かった…神龍、我愛羅くん眠れたみたい。
お部屋に送ってあげて??』

−ああ。友達が出来て良かったな。
大切にしてやれ。

『うん!我愛羅くんまた会う日まで、
ちょっとの間、バイバイ』








とても暖かい夢を見た。
夢を見たのも、ぐっすり眠ったのも初めてだった。

マリンが僕の背中をトントン叩いて
変な子守唄歌ってくれる夢。

『(ねーんねーん、ころりーよ、
おころーりよー♪)』

…クス

ふと、自分の笑い声で目が覚めた。

「マリン…?」

見回すと自分の部屋のベッドにいた。
マリンと話したこと、
マリンの存在自体が夢だったのか思い、
背中に冷や汗が伝う。

ふと自分の首元を見ると
淡いエメラルドグリーンの宝石が煌めいていた。
ああ、良かった夢じゃない。

僕は宝石をぎゅっと掴んで
頬ずりした。

その後すぐに里の門に走ったけど
火影御一行は既に出ていったという噂と、
里が元通りになったのは、
木の葉から来た小さな美しい女神によるものだ
という噂が聞こえた。

「マリンが女神様…ぴったりだ!!」

空を見上げると、澄んだ青空が広がっていた。

…ああ、空ってこんなに綺麗だったんだ。












砂の里からの帰りにマリンは
火影とカカシに訪ねた。

『おじいちゃん、お兄ちゃん、忍ってなに?』


その一言がきっかけとなり
マリンは忍の道へと足を踏み入れた。




 

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