君の手のぬくもりの同時間軸



その日、白石は学校に来なかった。連絡を取ろうとしたら携帯を雨の中に晒して水没してしまった。



「何や、今日白石おらんのか」

「アー、多分風邪や」



オサムちゃんにそう言うと、ユウジはなんだか変な顔をして「頑張れよ」と言った。何のことだか全く分からないけどとりあえず神妙な顔をしておん、と頷くとうんうん、と機嫌よく去って行った。

何?



「もしかして、おととい傘ささずに帰ったんが……」



そうだったら申し訳無い。今日は(白石に言ったら怒りそうやけど)部活に出るのは止めて白石のお見舞いに行こうか。



「……よしっ」



思い立ったが吉日、と昔の人は言ったではないか。



インターホンを押すと、はーいと間延びした声が聞こえた。それから若干急くように階段を歩く音と、何かにぶつかった音も。

……風邪を引いてボケたんやろか。というか寝てなさい。



「謙也くん」

「お、白石。なんや起きてたんか、お母さんは?」

「パート。姉も妹も帰って来へんし、今俺だけやで」



白石は笑っていたが、いつもより強張った笑みだった。そうやって寒そうに腕を擦る様子はまるで、



「さみしいんか、白石」

「え、いやそこまでは言っとらんわ」



いや、何年お前の親友やってきた思うとるんや白石は。



「そんな顔しとる」



そう言って握った手は暖かかった。白石も冷たいなぁ、とか言って笑っていて。

彼が笑っているだけで幸せになれる俺は、案外現金ではないのかもしれない。




君が笑っている、それだけで





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