「正に“悪魔の所業”ってやつだな、これは」

科学班員の大半は殺され、守化婁にされた者も多数。しかし、たった二人でよくこんなに多くのアクマを相手にしていたものだ。
俺が卵から降りると、アクマは周りを取り囲むように寄ってきた。

「クリス・アスフォード…! コロス、コロス、コロス!」
「あれま、俺ってば人気者だな」
「随分と自信過剰だね、クリス」
「その調子で全部片付けてくれると有り難いんだがな」

皆、俺が最年長だと気付いているのかどうか怪しい。ふん、と鼻を鳴らすと、クロスはやれやれと言わんばかりに溜息を吐いた。

さて。「洗礼」と呟くと重ねた両手から突然溢れた液体が意思を持って動き、その液体を浴びた部分からアクマの体は溶けて消えた。あの中には人の魂が入っている筈なのに、彼らは人を殺す。きっとこれこそが矛盾と言うのだろうか。

粗方片付いて周りを見渡すと、黒髪の鮮やかな女性と目が合った。通信によると、彼女が色のノア、らしい。
一歩下がって、武器具庫から持ってきた近衛兵用の剣を構える。彼女はそんな俺を見ると一瞬思案するように首を傾げた。

「あなたは、こんな所にいて良いのですか?」
「え?」

「およそ七十年前、貴方の犠牲で終わるはずだった“あの”実験が、繰り返されようとしているのに、あなたはそれでよいのですか?」

剣を握りなおすが、彼女に隙なんて無かった。寧ろあったのは俺のほうで。
固まる俺を余所に、彼女は無表情で俺の顔を覗き込む。誰かが俺の名前を叫んでいた。

「……嘘だろ」

  
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