本当は怖い転生白石主の話-2 (5/19)
「っげ、ゲームセット! ウォンバイ白石、6-1」

その言葉に、俺は正気を取り戻す。
気が付いたらラケットを持っていて、少女が向こうで絶望したように私を見ていて。
ギャラリーも言葉がでないようで呆気にとられていた。

何したんだ私。

「なんで嘘でしょ絶対ありえないありえないわなんで、なんで私が負けるのよ!」

彼女は膝から崩れ落ちた。
彼女の顔から滴り落ちるのは汗ではなく涙だった。
俺は額を滴り落ちる汗を袖で拭って、少女を軽く笑う。

いや、そんなことしたいんじゃなくてさ。何で勝手に動くの俺の腕!

「自分、ホンマに今までテニスやっとったんか? それにしては腕は細いし、動きも鈍い」
「や、やってたわよ! 十年間、ずっと! 私にはテニスしかないのに、何でアンタなんかに負けたの!?」

嘘吐け。
はあ、と溜息を吐いた。その行為に、はて自分はこの状況に呆れたのだろうかと考えて首を振った。

「残念やったなぁ。俺は、自分みたいな奴に負けたりはせんよ」

その言葉だけは本心だった。

コートに来ても、何が起こっているのか分からなかった。だって謙也くんはあれでも(と言ったら失礼だけど)部内でも上から数える方が早くて。皆に慕われていて、俺の大好きな親友なのに。なんでそんなこと言われなきゃいけないんだとかお前に言われたくないとか。口には出来ないような罵倒が頭の中をぐるぐるしてぶっ倒れそうになったとき。

   い い か ら

決して彼は言葉には出さなかったけれど、泣きそうに笑うのを見て我慢ができなかった。言い返そうと思って、口を開いて。
そこで、意識は途切れている。

「嫌やなぁ、全く」

操り人形ではないのに、と独りごちて、もう一度溜息を吐いた。彼にも困ったものだ。私はもう、小さな子供ではないというのに。
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