次の日も、律儀で真面目な真田は家の前まで迎えに来た。

真田の家と俺の家も、遠すぎるわけでもないけど、極端な近さでもない。朝、しかも朝練の時間に間に合うようにするためにはちょっとどころじゃあない早起きが必要なはずだ。……いや、真田は元々おじいちゃん並みの早起きなんだけど。



「幸村、おはよう」

「……おはよ」



朝から嫌になるくらい声がでかい。意志の強そうな目。それがじろじろと俺のつま先から髪の一本まで検分してくるのだから、嫌にもなってくる。



「ふむ、今日は顔色もよさそうだな」

「今日も、だろ。真田がやけに目ざといお陰で、うっかり夜更かしもできないんだけど」

「睡眠時間は  」「わかってる!」



また昨日のやりとりを繰り返してしまうような予感がして、思わず真田の言葉を遮ってしまった。思いのほか鋭い声が出て、一度深く呼吸をする。真正面から向き合うのもそわそわするから歩き始めた。顔を見て話したいとか、真田は思っているかもしれないけれど、俺には横並びくらいが丁度良い。真田の顔をみると色々なことを思い出してしまう。落ち着いて話をするべきだ。

俺が真田にだけ大人げなくなってしまうのは、偏に真田が過保護だからだ。珍しい病気にかかったこと、それを誰にも言わずにいたこと、そして真田との試合のあと倒れてしまったこと。冷静に、俯瞰でみれば、人一倍心配にもなるに違いない。

それくらいはわかる。わかっている。蓮二に言われなくたって。



「わかってるよ。俺は一回やらかしてるから、色々言いたくなるんだろう。でも病気は完治しているし、ついでに言えば、昨日体調悪かったのは、寝る前に柳生に借りた本が面白すぎて、途中で止められなくなって寝るのが遅くなったのに、夢見も悪くて全然寝付けなかったから」

「……そうだったのか」

「そうだよ。だから、俺を心配するより、怒るべきだろ。不摂生が祟ってるんだから。……気を遣ってくれてありがたいとは思うけど、今は健康体だし、体力も戻ってきた。これから入ってくる一年生は去年のことを知らないわけだし、無闇矢鱈と気を遣われるのは、俺が嫌なんだ」



考えていたことをすべて口に出しても、真田の顔色をうかがうことは難しかった。俺は肩にかけたスクールバッグを握りしめて、前だけを見ている。

これは我が儘だ。でも言わずにはいられなかった。真田がいつまでも「今の俺」を見ていないような気がしていたから。
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