認めたくないだけなんだ。

自分がまだまだ子どもで、前世の経験で背伸びをしているだけだと、本当は知っている。彼女が死んでからずっと俺の時間は止まったままだった。白石  あの子を再び見つけるまで。



結局その日は一人で家に帰った。帰りがけに蓮二が真田を誘っているのを見たから、おそらくば、蓮二が気を回してくれたんだと理解した。テニスの練習であったり、試合でもそうだが、柳蓮二という男の有能性を思うのはこういうときだったりする。人間観察だとか、第三者同士の人間関係の修復なんて、彼にはお手の物なのだろう。

勉強のコツは心得ているし、テニスの才能もある。でも、なぜか真田との関係性だけは、たまに綻びが生じている。そうなってしまう切欠を作るのは、いつだって俺の方からだ。こわくなってしまう。俺にはもう、沢山のできることがあるのに、テニスも、友情も、ただ一つ、それが欠けてしまう可能性を想像しては、勝手におそれている。

真田が強くなるのは、俺にテニスを続けてほしいから。真田がそう言ったから、俺は「真田に負けるまで」テニスを続けると誓った。才能に振り回されていた俺の手を、ずっと引っ張っていたのは真田だ。あいつは見ているこちらがいやになるくらい生真面目で、向上心の塊みたいなやつだから、自分より強い俺に勝ちたいだけなのだろうと、ずっと考えていた。

そんな泣き言を口にしてしまえば、真田はきっと「そうではない」と言うのだろう。仮にも幼なじみのあいつの言いそうなことくらい、想像がつく。

それを言わせてしまうのが自分の弱さなのだ。



「俺は、ずるいやつなんだなあ」



真田も蓮二も、俺の望みを知っている。怠惰な俺がテニスを倦厭しながらも続けてきたのは、きっと皆が言う“楽しいテニス”を求めていたからなんだって、今なら思える。手加減なんてせずに(そもそもできるほど器用じゃあないのだけれど)思い切りぶつかって、そうして最後に勝ってやりたい。それが俺の望みなのだ。

優勝を望まれている。今や俺たちに課せられた期待はうずたかく積み上がっている。たかが中学生の、部活のひとつだというのに。

テニス部の皆のことは嫌いじゃないのに、大会で優勝しなければいけないのだと考えるたびに頭が重くなる。楽しいテニスはいつできるんだろう。
| |
- ナノ -