「それにしても久しぶりだなあ」



そういえば、倒れて以来初めて学校に来る。ずっと病院の中に閉じ込められてたから外を出歩くってだけでも新鮮だったのに、学校に来るってなると格別のような気がした。いやー健康ってありがたいもんだ。

気分良くスキップしてコートへ向かう。真田が怒鳴っている背後のフェンスからこっそり練習風景を覗いていると、流石に一部の部員にはバレて、あ、という顔をされたのでしー、と人差し指を唇に当ててにっこり笑った。



「休んでいる暇があるならば走れッ腕を動かせッ! 一つでも多く球を返せッ!」



……真田の背を見て、酷な役目を背負わせてしまったのかもしれない、と俺はそのとき初めて思った。本来ならそれは俺がやるべきだと無力を痛感することはあったが、真田の気感情を考えたことはなかったかもしれない。名ばかりの部長と、部を仕切る副部長。真田が怒鳴り散らしている様子を見ていると、次第にさっきまで燻っていたものがひどくどうでもいいような気がしてきた。これだから駄目なんだ。すぐに情に流されてしまう。

そのとき、部員の一人が返した球が盛大に上がり、俺とコートとを仕切っていたフェンスすらも軽々と超え、俺の真後ろに跳ねた。驚いて咄嗟にコートに背を向けボールを追う俺に、真田は声を掛けた。



「すまない! 拾ってよこしてくれないか」



どうやら、気付いていないらしい。これは重畳、とばかりに俺は振り向いた。滅多に見られない、真田の表情にふと笑みを深くする。

ああ、戻ってきたんだ。



「勿論だよ、真田」
| | ×
- ナノ -