目を覚ますと見慣れない真っ白い天井が見えた。……いや待て、俺はいつ寝たんだ。いやそもそもここは何処だ。俺は真田と試合をして、



「……あ、そうか」



試合に勝ったけど、その後すぐに倒れたんだっけ。ベッドから身体を起こして周囲を見るとやはりというか病院の一室のようだった。なんと豪勢に一人部屋だ。ベッドサイドの机上には一枚のメモがあり、「仕事に行ってきます。ごめんね」と母の筆跡で書かれていた。こういう場合はナースコールでもした方がいいのだろうか。

呼ばれた看護師さんは起きている俺を見て驚いたような表情をして、それから主治医を呼びますね、と笑顔を作った。すぐに看護師さんは白衣を着たおじさん、もといお医者さんを連れてきた。それからはまあ、色々質問されたりして、今となっては隠す必要も無いので素直に答えたのだが、いつから感覚が無くなることがあると気付いた、と聞かれて今年の春くらいからです、と答えると先生はおや、と妙な顔をした。



「君のような例は少ないけど、ほぼ全ての症例で、発症から二週間以内に山場を迎えるんだがねえ。良いのか悪いのか今の段階では分からないけど、今までこれほど緩やかな進行だったのは神のご加護でもあったのかもしれないなあ」



神のご加護。

先生と看護師さんが病室から居なくなった後、することもなくて外を見てぼんやりしていると、その言葉がやけに脳内を駆け巡った。神様のお陰で、初めてあれだけ楽しくテニスが出来たのかと考えれば、神の子と称されていたのも悪くは無かったなと俺は思うのだった。
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