顔、というよりも身体の全体が、まるで太陽に晒されているかのように熱くて俺はようやく目を覚ました。眩しい光を堪えながら目を開いて、少しずつ身体を起こす。すると、ふと何か重くて温かいものが、俺の腹の上に乗りかかっていることに気付く。こ、これは……!

「ぴっかっちゅう」
「!!!?????」

かの有名なピカチュウ氏である。

白石こと俺、こと私は列記とした所謂オタクであり、ポケモンも守備範囲内だ。今だって、テニスやら部長やらで忙しい合間を縫ってポケモンはプレイしている。いつぞや発売した作品ではピカチュウ氏の鳴き声がアニメ準拠になって可愛さ二倍増しなのだが私の趣味は今はどうでもいい。問題は、今現在そのピカチュウ氏が私の目の前にいるということだ。
可愛い。ものすごく可愛い。こう、黄色い毛並みがふわふわしていて、風に煽られて泳ぐ頭の上のちょこっとした毛も愛らしい。なんだか全体的に謙也くんを思い出す、――?

「……ま、まさか」

うわーありそうな展開。最早今まででこの世界は何でもアリだということは流石に理解しているので私は顔を引き攣らせる。流石に、うん、「行くぜ相棒!」はない。肩に謙也くんを乗せたポケモンマスターを目指す少年になるつもりはない。せめて人型でいてくれ。

「……とりあえず、移動するか」
「ぴぃか、ぴか!」

草原のど真ん中に座り込んでいてもどうしようもない。よっ、と立ち上がって土に汚れた手を軽く払うと、ふと私の肩に乗っていたピカチュウ氏はとん、と駆け下りて数メートル先まで走ってこちらを振り返った。
なんだなんだ、と彼を追って私もそこへ行くと、草むらの色の中に紛れて緑色の巾着が落ちていることに気付いた。しゃがんで拾い上げると、ずっしりと重い感触。

「なに? これ、開けろってこと?」
「ぴっかっちゅう!」

頷くピカチュウ氏。なんだ、私の言葉を理解しているのか、お前すごいなあ。
他人様の巾着ではあるが、まあ、そういうことなので遠慮せずに開いて中身を見る。巾着と同じ緑色の薄い金属と、丁度六つあるモンスターボール。重かったのはどうやらこの緑色の物体のようだ。なにこれ、とそれの全体を摘んで眺めていると、ピカチュウ氏が突然それの表面にあった丸いボタンを押した。すると静かな音を立てて真っ二つに分かれて、小さなパソコンのような形状になって止まった。

「お、おお?」

片面は液晶、もう片方はキーボードと正にパソコン染みている。立ち上がった液晶画面を見てようやく気が付いた。これはみんなの憧れ、ポケモン図鑑だ!
画面をスクロールすると、ほとんどすべてのポケモンが埋まっている。コイツかなりやりこんでるな。途中でポケセン見つけたら預けとこう。そう思って所有者のデータを開くと、何故か「白石蔵ノ介」と俺の名前が書かれていた。

俺のだった。そりゃあやり込んでるわな。

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