鞄の中には大量のきずぐすりっぽいもの、おそらくかいふくのくすりと、それからげんきのかけらだ。ゲームで金にものを言わせて限界まで買った記憶がある。なるほど、プレイしたゲームに準拠しているわけか。それならこのボールの中も私の組んだパーティーなのだろうか。なんという御都合展開万歳!
確認のために一応、見よう見まねというかアニメの知識だけでボールからポケモンを出してやると、形もそれぞれの六匹が私の目の前に現れた。ちなみに、私がどんなパーティーを組んでいたのか諸君は気になるだろうが、ここは後々のお楽しみのために御預けとしよう。

「……行くか」
「ぴぃか!」

ピカチュウ氏はついて来る気満々のようだ。

草野原を歩いていけば、向こうの方に人影を見つけた。そういえば地図がないからどっちへ歩いていけば良いものやら分からない。あのお、と声を張り上げると、どこか訛りのある男の声がはいはぁい、と応えた。そのとき、私の肩に乗っていたピカチュウ氏が思いっきり肩を蹴ってその人影の方へ一直線に走って行った。なんだなんだ、何のイベントだ。運悪く丁度太陽の影になっていてその人が男だということしかわからない。しかし、その男は私の顔を見てああ、と大声を出した。……いや、もう、すごい聞いたことのある声だ。
男の下まで走ると、はあ、と息をつく。ピカチュウ氏はぴぃかぁ、と男とハイタッチを交わしていた。なんやねんめっちゃ仲ええやん。

「よかったよかった、すんなり合流できたわ」

まあ予想に違わず謙也くんだったわけですが。彼は中々ツッコミどころ満載の体をしていた。謙也くんは何故にそんな、服装も髪も色々と全体的にボロッボロなんだ。
しっかし二回目ということもあってか、異世界トリップに手馴れてきた感が少し悲しい。うんうんと頷く謙也くんの肩で、ピカチュウ氏も同じ動きをしていた。

というか、そうだな。私も最初思ってたけど。似てるなって思ってたけど。

「ドッペルゲンガー……!」
「ポケモンとドッペルとかおかしいやろ俺!」
「ナイスツッコミ!」
「いやぁそれほどでも、ちゃうわアホ!」
「それにしてもなんで謙也くん、そんなボロッカスやの。なんかもう既に冒険してきた雰囲気出てるで」

一通りのコミュニケーションの後に本題を切り出すと(このときも謙也くんは「俺の乗りツッコミ無視かい……」とぼやいていた)、謙也くんは突然せやねん、と大声を出して主張し始めた。

「俺、目ぇ覚めたらあっちの森の中に居ってん。なんのこっちゃわからんしとりあえず散策しとったんやけど、途中に落ちてた黄色い巾着拾ったらなんでか知らんけどでっかいハチに追いかけられて!」
「……ほお、それまたテンプレな」

スピアーに追いかけられるなんてサトシくらいしかしてないが。さすが謙也くん、スピードスター(笑)だけあって逃げおおせたらしい。
謙也くんの巾着の中身も、私と同じようなものが入っていたことを確認した後に、まあとりあえず、とよく知りもしない道を歩き始めた。目指せポケセン!




>次回予告
街に辿り着いた二人は、情報収集をしていくうちにこの街に“立海”という名のポケモンスクールがあることを知る。見知った名前にまたか、と思いながらもまあ折角だし、と気安い気持ちで体験入学した二人だったが――?
次回・人生を謳歌せよ番外編「働かない第六感」

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