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「これで何件目だよ、胸糞悪ィな」

 江戸でも屈指の剣士がここ最近遣られている、しかもその中には攘夷志士も居たとなっては真選組も黙っちゃ居られない。現場となった河川敷では奉行所の人間が荒らしまわる中、俺と山崎は野次馬の中でそれを写真に収めていた。いつまでもここを封鎖しておくこともできないからな。
 二人で黙々と写真を撮っていると、不意に山崎は声を上げた。

「……あれ?」
「どうした山崎」
「あの白い奴、桂のペットじゃないですか」

 見れば成程、エリザベスに違いない。走り去る後姿もついでに写真に収めると、山崎は不思議そうに言う。

「どうしてこんなところに居るんでしょうね」
「……さあなぁ」

 というか、俺達アイツ捕まえないといけなかったんじゃないか?
 そう気付いた頃には遅く、エリザベスは何処かへ消え、桂の姿も何処にも無い。紅桜と呼ばれる刀が盗難されたと通報されるのは、その次の日のことだった。



「「「妖刀!?」」」
「ようとう? 羊の頭?」
「妖怪の刀の方だよこの馬鹿」

 仲良く声を揃えた隊士達は何を言っているんだこの副長は、と本音駄々漏れの顔で俺を見た。馬鹿丸出しの総悟は放っておく。
 対戦艦用機械機動兵器、妖刀紅桜。それは盗まれ、挙句今までの連続殺人の凶器として鬼兵隊によって使われている。そんな内容の矢文が屯所の扉に刺さっていたのを見つけたのは他ならぬ俺だった。対戦艦用だなんてこの御時勢に誰が要るんだって話だがそういえば主にかの高杉とやらが立派な船をこしらえているんだった。

「兎に角! これが本当だったら真選組としても放ってはおけねェ。今日から警邏の人数を増やしてことに当たる。いいな!」

おう、と隊士たちは仲良く声を揃えて答えた。頭は悪いが血気盛んで頼りになる奴らばかりだ。というか嫌とは絶対に言わせないが。



「行くぞ総悟」
「へいへい」

 総悟はふわぁとやる気無く欠伸をした。かくいう俺も今日はすこぶる眠い。夜の見廻りほど嫌なものはないがシフトを決めたのは自分なのでなんとも言えない。いつもの見廻りだったら総悟を放し飼いにして勝手に放浪するのも容認するのだが、今回はあの高杉一派、人斬り似蔵が相手なのでもし遭遇したら、と考えると共に行動した方が合理的だろう。
 ま、どうせ警戒するだけ無駄かもしれないがな。なんせ原作じゃ真選組もほとんど出番無かったし。現に今も町中はしんと静まり返っている。俺が手綱を引いてる所為でふらふら出来ない総悟は最初こそ珍しく黙って周囲の警戒をしていたのだが、集中が切れたのか十五分も経つと詰まらなそうにぼやき始めた。

「なんだ、折角強い奴と手合わせできるかと思ったんですがねィ」
「俺じゃ不満なのかよ」
「今まで戦ったこと無い奴って意味でさァ。……んん、あそこの河川敷に居るの、万事屋の旦那じゃ」
「はあ? お前何言って……」

 総悟の言葉にぎょっとなりながらも彼が示す河川敷を見遣ると確かに、見覚えの有るような銀髪が居た。

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