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殺した。
俺は、俺が、医者が、人を殺した。
あいつらが襲ってきたから、俺は殺したんだ。
「アンタ、ひっどい顔」
伊東さんにばらしてから思考回路が昔に戻ってしまっていけない。「土方十四郎」はこんな繊細な人間ではないだろう。
気が付いたら目の前にはあの万事屋オーナーの面倒臭そうな顔と、何故か総悟の他人にはちょっと見せられないような酷い顔が並んでいた。何だ、もしかして心配されてるのか。
「考え込んでたところ悪いんだけど、ここウチん家の前なんだよねー。ちょっと邪魔というか、むしろこの人達片付けてくれないかなーって」
「ああすいやせんね、今日この人徹夜三日目で全く気が利かなくて」
気が利かないとか、お前に言われたくは無かった。
総悟は、山崎に連絡すると掃除はめんどくせェやとか抜かしてとっとと帰ってしまった。俺もそれについて行けばよかったのだが総悟と帰るのもちょっと気まずいような気がして万事屋の家に上がりこんでしまった。
ソファーに、と勧められたが暫くの間喋る言葉も見つからなくて、とりあえず俺は視線を時計にやると丁度十時前。
「……万事屋、一つ頼みがある」
「頼みって……ウチは高いぞ」
「俺が月に幾ら貰ってると思ってるんだオメェは。これでも高給取りだよ」
「あっそれは失礼いたしました」
そもそもだが、この万事屋に今回初めて入った。本当に甘党ってあるんだな。原作勢としては感涙ものだろう。
「明日から、近藤さんと伊東さんが武州まで出張する」
「伊東、って最近来たっていう切れ者の噂のアイツ?」
「そうだ」
奴は自由にもいちご牛乳をパックごと飲み干している。確かにお構いなくとは言ったがそこまでとはな! 茶ぐらい出せよテメェ、と口には出さないが目線で要求すると少し怯えて自分のいちご牛乳を差し出してきた。いらねェ。
「……これは憶測だが、奴は局長の座を狙っている。この一年間で俺と同等の立場を得て、近藤さんの信頼も得て、その先はおそらく」
「真選組の乗っ取り、か」
「山崎の調べでも、伊東さんが高杉らと繋がっているのは分かっている」
「へェ、そりゃ」
面白そうな話だ、と奴は目を輝かせた。
坂田銀時という男は掴みどころがない。俺でさえも奴が今何を考えて楽しそうにしているのかなんて想像が付かない。それでも、そんな男に頼みごとをするのだから、中々に俺も酔狂な奴だということか。
「何としてでも、近藤さんを守って欲しい。どんな手段でも構わないから、どうか」
俺達の真選組を、護ってくれ。
そこまで口にしたかはどうか分からない。もしかしたら俺の心の内だけで願われたのかもしれないが、その願いもまた、俺の本心だった。
今の俺の状況ではどれだけ内部で工作していたとしても直ぐに見つかってしまう。片付けたにも関わらず現在も山となって積まれているであろう書類のお陰で、おそらく俺自身が行くことは出来ない。それならばいっそのこと、外からの破壊で。
「……アンタを初めて見た後、少し調べたんだよ。ちょいと気になってね」
そしたら、と奴は脅すような笑みを浮べて俺を見た。気圧される。
「医師免許があるんだって? アンタ本当に面白い奴だな」
「褒めてるのか貶してるのか」
「一応褒めてる」
胡乱に奴を見ると、万事屋は不意ににかっと笑った。
「で、あのストーカーの御命を頂戴すればいいんだっけ」
「お前は今まで何の話を聞いていたんだァァ! 逆だ逆!」