これで地下街を訪れるのは何度目になるだろうか。賭博師か或いはこの地下街をねぐらにする者しか居ない所為か、見知らぬ、しかも調査兵団の制服を着た私が道を歩けば無遠慮な視線が突き刺さった。私はそれを無視し、道を右左右右左と進んだ先に住む老婆に話しかけた。数回の遣り取りの後に彼女は、私がこの僻地に来た理由である、“とある男”の居場所を紙に書いて、私に見せた後に直ぐに燃やしてしまった。

その男というのは、地下に住んでいるというのにその界隈のみならず地上の貴族の方々の耳にまで届くほどの力量を持っているという。ちなみにだがこの場合、対人相手の戦闘においてという意味だ。調査兵団へ入団してもらいその才能を遺憾なく発揮し、あわよくば英雄となって欲しいと企んでいたのを勘付かれたのか一度も私の誘いに首を縦に振らない。上層部としても私がこのような場所に通う行為には感心しておらず、今日ここに赴く際にこれが最後の機会だ、と遠まわしに勧告された。

男の住処の付近に近付くとともに、壁外からの帰還の際に嗅ぐような異臭が強くなる。これは紛れも無く死体の匂いであった。それに慣れてきた頃、ようやく見覚えの有るあの男の姿がふらりと袋小路に入り込むのを見かけてすかさず後を追おうとしたのだが、直ぐに別の男(云わば盗賊のような身なりであった)もその袋小路に入ったのを見て足を止めた。

「オイ坊主、こんなトコうろちょろしてんだからよぉ、盗られる覚悟出来てんだろうなあ」
「……うるっさいなあ」

まあ、言うならば圧勝であった。男、リヴァイは呆れた声でそう呟くなり、挑発されて向かってきた盗賊の拳を避け、そのまま一本背負いで盗賊を潰した。ついでとばかりに胴部を一回足蹴にすると、ようやく私が見ていたことに気が付いたようだ。

「流石だな」
「……それは、俺に言っているのか?」
「君以外に誰が居ると言うんだ、リヴァイ君」

そう言って笑いかければ、リヴァイは何故か安堵した溜息を吐いた。今の彼には何かが足りない。アンダーグラウンド特有の鬱々とした暗さがすっぽりと抜け落ちたかのように、以前と打って変わってくるくると変わる表情に驚きはしたものの特に支障は無かった。私の目的は彼を徹底的に利用しつくすこと、それだけだった。


罪悪と呼べばよろしい
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